# 882
『金子陽子/モーツァルト“黄金時代”のフォルテピアノ作品集』
text by 丘山万里子
MA Recordings MA-J507 2,940円(税込) |
Wolfgang Amadeus Mozart Works from his“Golden Age”(1781-1791) Yoko Kaneko : fortepiano
演奏:金子陽子(フォルテピアノ)
曲目:
1. ロンドイ短調 KV.511
2. ソナタ ヘ長調 KV.533, KV.494
3. 幻想曲 ハ短調 KV.475
4. ソナタ ハ短調 KV.457
5. グラスハーモニカのためのアダージオ ハ長調 KV.356(617a)
6. ソナタ ハ長調 KV.545
フォルテピアノ:クリストファー・クラーク製(2004年)ワルターモデル
録音:July 2011@Eglise Réformée d’Auteuil, Paris
エディティング&マスタリング:Todd Garfinkle
プロデューサー:Yoko Kaneko & Todd Garfinkle
改めてオリジナル楽器の魅力に刮目させられる
金子陽子はパリ在住のピアニスト。ガブリエル・ピアノ・クァルテットなど室内楽活動の他、多くのソリストの伴奏も務め、古楽の雄インマゼールとのフォルテピアノ・デュオでも高い評価を獲得、数々の賞に輝いている。
これはフォルテピアノによるモーツァルト黄金時代(1781~1791)の作品を集めた一枚。金子によれば、フォルテピアノは軽く繊細なタッチが、正確、明快で輝かしい音を出し、多彩な音色に恵まれていることから、奏者の個性が反映される演奏となるのにくらべ、現代ピアノはより重く耐久力のあるタッチで、強靭で勝ち誇った音を出す。だが、その均一な音色によって演奏は個性を欠く、とのこと。
確かに、このディスクを聴くと、その音色のさまざまな変化に感嘆させられる。楽器は当時のもののレプリカ (A・ワルター1795年作を名匠C・クラークが2004年に制作)であるが、モーツァルトの時代に限りなく近く、当時の響きを復元しているそうだ。
第一曲『ロンド』は哀愁を帯びた旋律が鍵盤から涙のしずくのようにしたたり落ちて来る。現代楽器の持つもやもやとした残響とは異なって一つ一つが粒立ち、真白い真珠の連鎖となって輝きを放つ。メロディ・ラインの音から音へと推移する間の適切な「溜め」もこの曲全体をしなやかに彩っている。この「溜め」は、どの緩徐楽章でも陰影に富んだ表情を生みだしており、とりわけ『ハ短調ソナタ』のアダージョや、最後の『ハ長調ソナタ』アンダンテでは、膝ペダルの使用とともに耳元でささやくような秘めやかな陶酔を誘う。一方で、この『ハ長調ソナタ』のアレグロ楽章などに見られる快速フレーズでは、明確なタッチが生き生きとした呼吸で弾け飛ぶ。その小気味良い疾走、華麗な指さばきによる軽快な運動性の目覚ましさ!彼女の掌(手のひら)の中でコマを回すような快感が突き抜ける。グラスハーモニカのための小品も透明なガラス細工のよう。
どの作品にも金子の的確なタッチとフレーズ構成、音楽の流れの自然さが息づき、改めてオリジナル楽器の魅力に刮目させられる。むろん楽器を自在に繰る彼女の技巧も見事。この1枚に、モーツァルトの明朗と、内なる哀感がくっきりと描き出されている。
彼女はこのほか、J・ムイエールとともに、パリ近郊のラ・ロッシュギュイヨン城で毎年4月に開いているマスタークラスでの若者たちとの演奏「Floriège des Master Classes 2010 au Château de la Roche-Guyon」の2枚組のアルバムも出していて、ここでは伴奏者、室内楽奏者としての柔軟な感性をいかんなく発揮している。これもお薦めのアルバムである。(丘山万里子)
(http://yokokaneko.wordpress.com/2011/04/12/double-cd-live-de-la-roche-guyon-schubert-schumann-ラ・ロッシュギュヨン城ライヴcd/)
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