#  887

『菊地雅章トリオ/サンライズ』
text by 今村健一


ECM/ユニバーサル
UCCE-1131 2,600円(税込)
4月4日発売予定

菊地雅章(p)
トーマス・モーガン(b)
ポール・モチアン(ds)

1. Ballad 1
2. New Day
3. Short Stuff
4. So What Variations
5. Ballad 2
6. Sunrise
7. Sticks And Cymbals
8. End Of Day
9. Uptempo
10. Last Ballad

録音:ジェームズ A.ファーバー@アヴァター・スタジオNYC 2009年9月14-15日
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー

「沈黙に次いで最も美しい音」という言葉を最も忠実に体現した音楽

 菊地雅章氏のニューヨークのアパートに国際電話をしたのは03年の年末。『Experiencing Tosca』の発売に合わせ簡単なコメントをもらうだけの予定だったが、思いがけず話が弾み氏が眠くなるまで続く長電話になってしまった。その時のメモに、こうある。

 「俺がレコーディングする時は、素材となる曲を一応準備しても、殆どがそこからイメージを膨らませた集団即興になる。で、人間年取ってくると不要なものは捨てていくでしょ、だから切り口が『トスカ』でも結局は大部分が捨て去られて、個性だけが残るというか」

 『Sunrise』を聴いたとき、最初に浮かんだのはこの言葉だった。菊地氏の無意識から音を立ち上げる“気”。その瞬発性に共振/共鳴するポール・モチアンは瑞々しいシンバルワークで彩りを添え、トーマス・モーガンも二人に親密に寄り添いながら81年生まれという若さをサウンドに加える。感じるのは、不要なものが全て捨て去られた、ただ三人の個性。

 但し、今回はプッチーニのようなインスピレーションの出発点すらなく、無/沈黙/ゼロから音を立ち上げ、その動と静のバランスから生まれるダイナミクスの変化を音空間にどのようにディスプレイしていくかという部分だけで音楽が構築されていることを感じる。そして、トーナリティの束縛から完全に解放されつつも、実に豊かなエモーション(=啼き)がその底流にあることも。

 『Sunrise』という作品は、音の動静の“間合い”自体の美しさと力強さに正面から向き合っている。その透明な情感はこれまでのどのECM作品とも異なるが、「沈黙に次いで最も美しい音」という言葉を最も忠実に体現した音楽であることは確かだ。(今村健一)

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