# 891(アーカイヴ編)
『Jon Irabagon with special guest Barry Altschul/FOXY』
text by 望月由美
ジョン・イラバゴンの精神的なタフさに感服する
先ずは表ジャケットに目を奪われる。荒野の砂漠にビキニ姿の金髪の美女がテナー・サックスを手にたたずみ、足元には牛の頭蓋骨、そして一本のサボテン、右上にはCONTEMPORARYのマーク。さらに右下にはOJCまがいのロゴといかにもソニー・ロリンズの『Way Out West』(Contemporary/OJC盤)のパロディである。そしてご丁寧にも裏面にはカウボーイ・ハットを被ったジョン・イラバゴン(ts)がテナー片手にロリンズと全く同じポーズで決めている。しかも編成もテナー、ベース、ドラムのトリオ編成と念がいっている。もうひとつ、気になる点はサブタイトルにスペシャル・ゲスト、バリー・アルトシュルとあり、あのチック・コリアのトリオやサークル、アンソニー・ブラクストン等と叩いていたバリー・アルトシュル(ds)の現況が聴けるとあって、これはパクリと看過せず洒落と解釈するのも一興と聴いてみた。
タイトルは『FOXY』、FをDに変えればDOXY、ロリンズ・トリビュート集かと思ったら大間違い、肝心の演奏はいきなり3者の激しいソロの応酬から始まる。しかもソロの真っ只中からのフェイド・インでスタートし、そのまま延々と78分28秒ひたすら吹き、弾き、叩きまくり最後はまたまたソロの途中で、突然カット・アウトで終わる。演奏曲目は一応12曲とクレジットされているがフェイド・インからカット・アウトまでノン・ストップでひたすら大ブローの連続である。ところどころに<ナウ・ザ・タイム>など断片的に聞き知ったフレーズが出てくるがそれもほんの一瞬で、目まぐるしくテンポが変わる中をジョンがノン・ブレスを交えて吹きに吹きまくる。リズムの二人はその間だれることも無くパルシヴなリズムを送りジョンに刺激を与え続ける。バリー・アルトシュル(ds)は今年で69歳になるが以前にも増してアグレッシヴで元気だ。インナー・スリーブには6人の美女に囲まれてご満悦のバリーの笑顔も見られる。
ジョン・イラバゴンはシカゴの出身で、シカゴのデポール大学在学中からクラヴなどで演奏を始めている。2001年ニューヨークに進出、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックに通いデイヴ・リーブマンやジェイソン・モラン等から学んでいる。2008年のセロニアス・モンク・サキソフォン・コンペティションで受賞、2011年のダウンビート誌の国際批評家投票では、ライジング・スターの部門でアルト・サックスのウイナーに選ばれている注目のニュー・タレントである。Webで本作をネオ・ビ・バップと評しているレヴューを読んだことがあるが云いえて妙である。
ジャズ・ジャイアンツの偉業をしっかりと認識した上で既に確立されたスタイルにこだわらずひたむきに吹きまくるジョン・イラバゴンの精神的なタフさに感服する。因みにこのアルバム、聴き出したらやめられない、とまらない、カッパエビセン状態になるのでリスナーも時間的な余裕と体力のあるときに聴くことをお薦めします。(2012年2月 望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
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#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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