# 893
『Weiss・Lute Music・Jakob Lindberg/Sonatas played on the unique 1590 Sixtus Rauwolf lute』
text by 嘉吉純夫
BIS Records BIS-CD-1524 |
演奏:Jakob Lindberg(lute)
曲目:
Prelude in E flat major, Ciaccona in E flat major, Sonata in C minor, Sonate in
B flat major,Prelude in D minor, Fugue in D minor, Sonate in A minor, L'Infidele
録音:2004年4月@Lanna Church、Sweden
プロデューサー:Johan Lindberg
エンジニア:Hans Kipfer
現代を代表するスウェーデン出身のリュート奏者リンドベルイによるS.L.ヴァイスのリュート曲集。何と、現在使用可能な最古の楽器(1590年アウグスブルク製、最近の補修はフィレンツェのピッティ宮に保存されていた希少な古代木を用いてなされ、共鳴板はオリジナルのまま)による録音である。筆者は、この演奏者が、シクストゥス・ラウヴォルフ作のこのリュートのやわらかで、独特のふくらみのある奥ゆかしい音色を、上野の文化会館の小ホール内に響きわたらせた現場に居合わせていた(2007年3月4日)。その時は、ナイロン弦を用いたルネサンス調弦によるダウランド・プログラムであったが、本盤は、ガット弦を用いたバロック調弦による演奏である。
ヴァイスの代表的な小品『チャコーナ変ホ長調』と最高傑作(と筆者がみなす)『ファンタジーハ短調』が収められているのが何よりうれしい(もっとも、後者は別のハ短調の組曲の序曲として扱われているのであるが)。前者においては、暖炉の前でまどろむような幸福感が漂い、後者からは、2分8秒に凝縮された人生万感の思いが伝わってくる。曲の半ばにしてフーガ的なフレーズが始まってくると、筆者はしびれて「ああ」と嘆声をもらしてしまうのが常である。後半に置かれたイ短調の組曲『不実な女』(最近、『異邦人(トルコ人)』と訳すべきであるとの見解が提出された)の演奏も秀逸で、これまでどの奏者の演奏を聴いてもピンとこなかった筆者をついに楽興へと誘った。
リュート曲の創作と演奏にかけては、ヴァイスは紛れもなく当代随一の才人であった。先頃、大バッハ作と伝えられるイ長調のトリオが、実は彼との交流から生まれた一種のコラボレーションであることが明らかにされ、このニュースは驚きとよろこびをもってヴァイス・ファンに迎えられた。しかしながら、わが国を代表するリュート奏者のひとり今村泰典氏によれば、彼はバッハとは異なって、「びた一文遺さずに」世を去ったそうである。終生、その日限りの悦楽の華を摘むのに忙しかったのだろうか。それとも、陰影に富むリュートの音色のほかには彼の魂の隙き間を埋めるものがなかったのだろうか。夜の深まりともに、最終曲の〈ペイザンヌ〉が密やかにこの世の闇路に吸い込まれてゆく。(嘉吉純夫)
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