#  895

『Adrian Justus Violin Recita/la Campanella』
text by 丘山万里子


Office Amici AJ-1001
3,000円

演奏:
Vl/Adrian Justus(アドリアン・ユストゥス)
Pf/Rafael Guerra(ラファエル・ゲーラ)
曲目:
H.シェリング/古典的前奏曲(ヴァイオリンとピアノのための)
E.イザイ/ソナタ第2番イ短調 作品27-2(無伴奏ヴァイオリンのための)
M.M.ポンセ/ソナタ・ブレーヴェ(ヴァイオリンとピアノのための)
N.パガニーニ/カプリス集作品1(無伴奏ヴァイオリンのための)より
       第21番、第6番、第17番 
       ラ・カンパネラ(オリジナル版)
アンコール:
M.M.ポンセ〜J.ハイフェッツ編/エストレジータ(小さな星) 
P.de サラサーテ/サパテアード
A.ドヴォルジャーク〜クライスラー編/スラブ舞曲第2番ホ短調 作品72-2

録音:2011年1月13日@東京紀尾井ホール
プロダクション・スーパーヴァイザー:Yuriko Kuronuma
CD&DVDプロデューサー:Asao Nishimatsu
レコーディング・エンジニア:Fumio Hattori

 メキシコ生まれのヴァイオリニスト。「アカデミア・ユリコ・クロヌマ」で黒沼ユリ子に師事。その後マンハッタン音楽院でP.ズッカーマンのもと、研鑽を積む。黒沼によれば、「歌うヴィルトゥオーゾ」で、その超絶技巧より「歌心」にこそ、彼のヴァイオリンの心髄がある、とする。このディスク(&DVD)は2011年に紀尾井ホールで行われたリサイタルのライブ録音。
 まず、その音に魅了される。全編に流れる音は、さんさんと輝く太陽の恵みをいっぱいに受けて育った果実のようにジューシー。そのほんのりした甘味としたたる瑞々しさは、彼の育った風土が生んだものだろう。したがって、メキシコの作曲家M.M.ポンセの作品『ソナタ・ブレーヴェ』や『エストレジータ』に深い共感が宿る。あわあわとしたピアノにのってしなやかな身のこなしを見せる『ソナタ・ブレーヴェ』の旋律。とりわけ第3楽章Allegro alla spagnuola での目覚ましい回転性とアッチェルランドは、まばゆい陽光の下での情熱的な輪舞を思わせる。『エストレジータ』(アンコール曲)はまさに歌心にあふれ、切々と胸に訴えてくる。同じアンコールでのドヴォルジャーク作品も小雨にぬれそぼる街角の男女の愛のささやきのようだ。
 もちろんパガニーニの『カプリス』、『ラ・カンパネラ』も聴きごたえ充分。『カプリス第6番』のトレモロのさざなみの上を滑ってゆく静かな声音や、『第17番』の素早い下降音型と飛ばし弓の対比の鮮やかさ。『ラ・カンパネラ』はどんなディティールにも濃やかな神経が行き届き、フラジョレット(倍音)の美しさも格別だ。若々しい弾力に富む演奏で、超絶技巧もさらりとこなして聴衆に媚びることもない。ピチカートがよく鳴るのもユストゥスの大きな美点だろう。このピチカート、イザイの『ソナタ第2番』の第3楽章の導入部分でも光っている。
 リサイタルの冒頭を飾るシェリング『古典的前奏曲』での端正さには、第2次大戦時にメキシコに亡命したシェリングへの敬愛がこめられているようだ。使用楽器はグァルネリウス デル ジュス<Lord Coke>1744製。
 日本ではまだ名を知られているとは言いがたいヴァイオリニストだが、これからが楽しみな逸材である。ちなみに本誌の前号で写真家林喜代種氏が、彼を紹介している。http://www.jazztokyo.com/column/hayashi/036.html(丘山万里子)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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