#  896

『Adrian Justus Violin Recita/la Campanella』
text by 望月由美


ACT Music 9524-2

Vijay Iyer: piano
Stephan Crump: bass
Marcus Gilmore: drums

1. bode(Vijay Iyer)
2. optimism((Vijay Iyer))
3. the star of a story(Rodney Temperton)
4. human nature/trio extension(Steve Porcaro/John Bettis)
5. wild flower(Herbie Nichols)
6. mmmhmm(Steve Ellison(flying lotus) /Stephen Bruner(thundercat)
7. little pocket(Henry Theadgill)
8. lude ((Vijay Iyer))
9. accelerando(Vijay Iyer)
10. actions speak (Vijay Iyer)
11. the village of the virgins (Duke Ellington)

プロデューサー:Vijay Iyer
録音:2011年8月8日、9日
スタジオ:Sear Sound、NYC。
エンジニア:Chris Allen

 今、ニューヨークのジャズ・シーンの最先端でもっとも旬の3人が創りだす、活力に満ちたサウンドが新鮮である。前作ではかなりインド音楽のテイストをとりいれた実験を試みていたヴィジェイだが本作では本来のピアニストとしての並外れた力量を遺憾なく発揮している。ライナーノーツでヴィジェイ自身、音楽はアクションであると語っている。そしてアルバムの最後にデユーク・エリントンのバレエ曲を入れるなど本アルバムを、ダンス・リズムを基点としたアメリカのクリエイティヴ・ミュージックなのだと位置付けている。その言葉どおり、躍動感に満ちた演奏である。 ピアノ、ベース、ドラムという標準的なピアノ・トリオの編成だがここでの3人は従来の枠にとらわれることなく、今の空気を反映する先鋭的なアプローチでピアノ・トリオの領域を一歩進めているかのように斬新である。

 自分のオリジナルはもとよりハービー・ニコルズやデューク・エリントンといったジャズの巨人達の作品からフリーのヘンリー・スレッギル、更にはマイケル・ジャクソンのヒット曲に至るまでボーダーレスの選曲をしている。ジャズの伝統をしっかりとふまえた上で自分の立脚点に立ってレンジを広げているところはヴィジェイらしい。特に(4) <ヒューマン・ネイチャー>は前々作のソロ・アルバム『ヴィジェイ・アイヤー/デビュー』(VACG-1011)ではピアノ・ソロで弾いていたマイケル曲のトリオ・ヴァージョン。この2枚の<ヒューマン・ネイチャー>を聴き比べるとソロでは原曲のメロデイを美しく際立たせてチャーミングに弾いていたヴィジェイがトリオでは更にベース、ドラムの激しいカウンター・プレイに触発されて力強いプレイを展開していてソロとトリオとのコントラストが面白い。また、デユーク・エリントンのバレエ曲(11)<ヴィレッジ・オブ・ザ・ヴァージンズ>ではヴィジェイのタッチにアブドゥーラ・イブラヒム (ダラー・ブランド) のイメージまでも浮かび上がってくる。デューク・エリントン〜アブドゥーラ・イブラヒム〜ヴィジェイ・アイヤーは一本の道としてつながっているように思える。

 ベースのステファン・クランプはメンフィスの出身でアマースト大学卒業後ニューヨークへ出てマイケル・ムーア(b)について学び、自己のロゼッタ・トリオやスティーブ・リーマン(sax)とのデュオ等々でジャズ&ファー・ビヨンドの世界で多忙を極めるベーシスト。アコースティックとエレクトリックの顔をもっているが、ここではアコースティックに専念、芯の強い音でリズムを支えている。

 ドラムスのマーカス・ギルモアは1986年ニューヨークの生まれであり未だ26歳という若さである。昨年3月、ギラッド・ヘクセルマン(g)のトリオで来日、3.11は日本で過ごしている。また、夏にはゴンサロ・ルバルカバ(p)のトリオでも来日している人気者でロイ・ヘインズ(ds)のお孫さん。聞くところによると10歳の時にロイ・ヘインズからドラム・セットをプレゼントされたらしい。ロイゆずりの立ち上がりの鋭いサウンドと変化に富んだリズミック・パターンで共演者に刺激を与える新世代のドラマーとしてチック・コリアのピアノ協奏曲『大陸』(Universal)にも抜擢されている。ヴィジェイ・アイヤーとはヴィジェイのACTへの移籍第一作『Historicity』(ACT、2009年)以来の永い付合いで、ここでも息のあったプレイで演奏にダイナミズムを与えている。

 ヴィジェイはロスコー・ミッチェルの「ノート・ファクトリー」やワダダ・レオ・スミスの「ゴールデン・クインテット」などシカゴAACMの重鎮達との活動で注目を浴びる一方、スティーヴ・コールマンやラドレッシュ・マハンザッパなど気鋭のニュー・スター達とも共演を重ね、さらに自己のユニットではインドの民族音楽的要素をとりいれるなど意表をつくようなアイデアで音楽の領域を広げてきている。すでに今年のグリーンフィールド賞受賞のニュースも伝わってきている。ニュー・ミュージック・シーンの牽引車の一人として大いに注目すべき人であり眼が離せない。 (望月由美)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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