# 898
『Mike Nock Trio Plus Karl Laskowski & Ken Allars/Hear And Know』
text by 悠 雅彦
FWM Records FWM - 002 |
Mike Nock (piano)
Ben Waples (bass)
James Waples (drums)
Karl Laskowski (tenor saxophone)
Ken Allars (trumpet)
1. Hear And Know
2. The Sibylline Fragrance
3. Colours
4. After Satie
5. Komodo Dragon
6. If Truth Be Known
7. Slow News Day
Recorded at Trackdown (Australia), Sept 29th,2011 by Daniel Brown
マイク・ノックは昨年の東京ジャズ祭にトリオを率いて出演し、国際フォーラム・ホールDでの<東京JAZZ CIRCUIT>のオーストラリア・ジャズの部でゲストに日野皓正を迎えて「All the Things You Are」などで熱演を披露した。このときのベンとジェームスのウェイプルズ兄弟が本作にも名を列ねる。本作のノーツの冒頭でマイクが書いている。「ベンとジェームスと私はもう10数年前、(私が教えていた)シドニー音楽大学のジャズ研究科で会って以来、演奏する喜びを共有しあってきた。数年前からテナー奏者カール・ラスコウスキーを交えたクヮルテット演奏に着手した。トリオによる日本ツアーと時を同じくして(8月)、トランペットのケン・アラーズがジェームス・モリソン賞<Generations in Jazz Scholarship>に輝いた。今こそ演奏を記録すべきときだと私は思った」。
実際に、一昨年の夏、本欄で紹介した2枚組CD『An Accumulation of Subtleties』(FWM)がこのトリオによる力作で、年齢を超えて充実した音楽活動と意欲のほどを示したノックならではの素晴らしい作品だった。別にお世辞でも何でもない。これは2008年の録音だったが、この1作はそれ以来のノックの新作ということになるのだろう。
ホーン2本を加えた編成といえば、いうまでもなくバップ時代以降モダン・ジャズ演奏の定型となったスタンダード・クィンテット。しかし、全体の演奏はむしろオーソドックスな印象を与える。むろん後ろ向きな演奏という意味ではなく、たとえばこれもほんの少し前に本欄で紹介した10人編成バンドによる『Bigsmall Band』や、やはり9人編成からなる大型コンボで演奏したマイク・ノック・プロジェクト作品『Meeting of the Waters』に顕著だった、新プロジェクトにかける意気軒昂ぶりや挑戦的な試みに較べて通常の演奏スタイルという意味であって、マイナスのイメージはまったくない。それどころか繰り返して聴くと,作曲家としても大きな定評を獲得しているノックらしい変化と趣きに富む曲が並ぶ。1例を引くなら往年の米国時代を偲ばせるパストラール的なオープニングから5拍子のエレジー風な曲調のAへ。今度はまた一転してアウトする尖った感じのBへ、と全体を俯瞰すると性質も曲調も違う曲が並ぶ。それがすこぶるスムースに流れていくので、聴く方も何らの違和感なく気持よく身をサウンドにまかせたまま没入できるのだろう。
演奏も快適で,各メンバーが相応の実力を発揮してみせる。テナーのラスコウスキー,トランペットのアラーズ、ともにそれぞれの能力に見合ったプレイを披露する。とくにアラーズは賞を射止めただけのきれいなトーンと精確で魅力的なフレージングで注目に値する。Dでのブラッシュ・ワークが素晴らしいジェームスと全体を支えるベンのウェイプルズ兄弟ら、恐らくはオーストラリア注目の逸材ともいうべきプレイヤーに囲まれて嬉々としてプレイするノックの笑顔が見えるような新作といっても過言ではないだろう。
オーストラリアのジャズが見向きもされなかったかつての暗黒時代から、わが国でもこの国の優れた演奏や演奏家に注目し、今日では高く評価する人々も少なくない。その先頭に立って主導的な活躍を繰り広げ、若手の指導育成にも尽力してきたのがマイク・ノックであった。この新作のみならず、ノックの活躍はまだまだ続くはずだ。ハービー・ハンコックやチック・コリアとほぼ同じ年齢の彼が、オーストラリア・ジャズ界に依然欠かせない重鎮であることをも含めて彼の優れた音楽性と指導力を再認識させられる。
なお、オーストラリアでは『Serious Fun / The Life and Music of Mike Nock』(Norman Meehan著)というマイク・ノックの伝記が出版された。折りを見ていつかご紹介したいと思っている。(悠 雅彦)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.