#  903

『ウェス・モンゴメリー/エコーズ・オブ・インディアナ・アヴェニュー』
text by 高谷秀司


Resonance Records/キング・インター

ウェス・モンゴメリィー(guitar)
モンク・モンゴメリィー(bass)
バディ・モンゴメリィー(piano)
ミンゴ・ジョーンズ(bass)
アール・ヴァン・ライバー(piano)
ソニィー・ジョンソン(drums)
メルビィン・ライン(piano)
ポール・パーカー(drums)

1. Diablo's Dance (S. Rogers)
2. Round Midnight (T. Monk)
3. Straight No Chaser (T. Monk) -
4. Nica's Dream (H. Silver)
5. Darn That Dream (DeLange, Van Heusen) -
6. Take the A Train (B. Strayhorn)
7. Misty (E. Garner)
8. Body and Soul (Green, Heyman)
9. After Hours Blues (Improvisation) -

プロデューサー:Zev Feldman
録音:1957〜58、インディアナポリス

世の中には、聞く側に緊張を強いる音楽というのが確かに存在する。
しゃっちょこばったクラシックとか...
演奏する側が、あえて、緊張することを求めてくる音楽である。これは音楽のジャンルの問題ではない。
オーディエンスは、その型に合わせようとする。

今回のこのウェスのアルバムは、それらとは明らかに一線を隔して、一切の緊張を解き放ち、聞く側の虚飾や形式主義を根底から剥ぎ取って、音楽そのもの、ウェス本人そのものとまっすぐに向き合わせてしまう『珠玉の名盤』である。

なぜ名盤なのか...
じつは、私もこのアルバムを聴く前はかなり緊張していた。
ひとつは、ウェスの未発表アルバムが聴けるというわくわくした緊張...
もうひとつは、編集長から拝命を受けた時、「ウェスのアルバムの紹介は、タッカー(私高谷のことです)しかいないから...心してね..」といわれたから。
かなりのプレッシャーという緊張...マイケル・カスクーナーが詳細なライナーを書き、 ビル・ミルコウスキーが精密な演奏曲目解説を記し、児山紀芳氏が謎と真実を解き明かし、モンク・モンゴメリィーとバディ・モンゴメリィーがウエスの少年時代をその内面、 精神性から説き起こし...その後、何を書くことがあるのか?...

ひとたび、この音源にふれると、私の見栄や外聞が根こそぎ取り去られてしまった。
けち臭い人間の所業が、ウエスの音楽にふれることによって、そぎ落とされてしまった。
そこに、確かにウエスという人間がいる。

私の職業は、ギタリストである。ギターを弾くことを生業にしている。

しかし、かねてから吹奏楽器、つまり、息を吹くことによって音の出る楽器を演奏している人々...サックス、尺八、トランペット...への憧れと嫉妬があった。
所詮、弦を爪弾く楽器は、吹奏楽器にかなうわけがない、と、嘯いていた。
しかし、
『エコーズ・オブ・インディアナ・アヴェニュー』のウェスのギターは呼吸している。命の息吹、心の息吹が迸っている。
吹奏楽器を凌駕する魂の鳴動がある。
ギターという楽器の可能性を人智の及ぶ範囲を超えて、途轍もない領域にまで引き上げてしまったのがウェスだ。
よく、彼が楽譜を読めたのかどうかとか、音楽理論を知っていたのかどうか、とかいろいろな物議があるが、そんなことはどうでもいい。
演奏に引き込まれていると、ウェスがギターを弾いているのではなく、ウェスという人間が生まれてから、ウェスという人間にあわせて、ギターという楽器が拵えられたんだと思わされる。
ありきたりの言い方かもしれないが、ウェスの前にウェスなし、ウェスの後にウェスなし...。

では、どこがウェスらしいのか...ギタリスト目線で...このアルバムで、新たに気づかされたこと...。
ウエスはFm7(Um7)で、コード分解を多用する。そのコード分解はコードトーン+9thで弾かれることが多い。
このコード分解にクロマティック・アプローチを加えるとさらに幅が広がる。クロマティック・アプローチとは、半音上下の音からコード・トーンへ繋げる方法である。
また、
UーXの多様の中で、一小節内2拍ごとにコード・チェンジするUーXに対し、
ウェスは、

1、ドミナント7thコード一発で弾く

逆にドミナント7thのワンコードと仮定して弾いている。UーXはX7を分割したもので、本来はX7のワンコードと解釈するとごく自然なアプローチといえる。

2.マイナー7thコード一発で弾く

マイナー7thコードのコード分解で押し通す

3.UとXを弾き分ける

Um7をコード分解、クロマティック・アプローチで弾き、X7はアルタード・テンションと呼ばれるJAZZフレーバーたっぷりの音を使って弾く方法だ。
オルタード・テンションとは、♯、♭がつく4つのテンション・ノートの事。臨時記号のつかないナチュラル・テンションとは、一線を画する。

ウェスはワン・コーラスの中で、♭9thを圧倒的に多く使っている。
ここに、ウェスのウェスたる所以があると、思う。
ウェスのギタリストとしての色気の源はここにある。
そして、
ウェスのギター・スタイルは、人間としての生き様の意思である。(高谷秀司)

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