# 911
『ブランフォード・マルサリス/フォー・MFズ・プレイン・チューンズ』
text by 悠 雅彦
ユニバーサル・ミュージック UCCM - 1214 ¥2, 600(税込) |
ブランフォード・マルサリス(ts,ss)
ジョーイ・カルデラッツォ(p)
エリック・レヴィス(b)
ジャスティン・フォークナー(ds)
1. ザ・マイティ・ソード
2. ブリューズ
3. マエストラ
4. テオ
5. ウィプラッシュ
6. アズ・サマー・イントゥ・オータム・スリップス
7. エンディミオン
8. マイ・アイディアル
9. トリート・イット・ジェントル(Bonus Track)
2011年10月11、12日 米ノース・カロライナ州ダーラムのハイチ・センターにて録音
2つの点に注目して聴いた。1つは、ブランフォードがその才能に惚れこんだ弱冠20歳のドラマー、ジャスティン・フォークナーが、正式に師のクヮルテットの1員となっての初レコーディングでどんなプレイをしているか。もう1点はそれに直接関連することだが、ドラマーのジェフ・テイン・ワッツの退団に伴って発足したブランフォードのこの新しいグループが、デビュー作といっていいこの作品でどんな演奏を展開しているか。この2点だ。
一口に言って、フォークナーは知的でセンスに富んだ、実に活きのいいドラマーだった。彼はまだ在学中の18歳だった一昨年の3月、ブルーノート東京のコンサートで演奏したので、ご覧になった方もおられよう。その一端を5.の「ウィプラッシュ」における終盤のドラム・ソロにうかがうことができる。
ブランフォードの新クヮルテットの旅立ちとなったこの1作は、もしかするとグループにおける各楽器の立ち位置を再検討し、従来の慣習的な役割や関係にこだわらないアンサンブルと演奏法を打ち出したのかもしれない。その1つがフォークナーのアプローチにあることは間違いないが、もう1つはピアニストの役割の変化という形で現れ、それがある種の効果をもたらしている点だ。たとえば、オープニングのジョーイ・カルデラッツォのオリジナル曲「ザ・マイティ・ソード」は冒頭からカルデラッツォの提示で始まり、これをブランフォードが再奏したあと両者のソロへと展開するが、ジョーイはこのとき和声とコンプの役割にはこだわらない。いわばピアニストとしては和声やコンプ提供の役割から解放されているのだ。この1曲だけかと思いきや、さにあらず。大半の演奏曲がこのアプローチを採っている。そのため他の楽器によるソロでは、ときにピアノレスの演奏のように聴こえる。そこではスペースがシンプルな広がりを印象づけるばかりでなく、演奏のケレン味のなさを活きいきと浮かび上がらせる。前作に当たる『メタモルフォーゼン』で前クヮルテットが示した美学を越えて、ブランフォードが新しい出発に踏み出したことを示唆する演奏集といっていいのではあるまいか。
収録曲は9.のボーナス・トラックを含めて全9曲。ブランフォード自身の3曲、カルデラッツォとベース奏者エリック・レヴィスの各2曲、これにセロニアス・モンクの4.とモーリス・シュヴァリエが映画の中で歌って以来アームストロングら多くの演奏家が手がけた古いスタンダード曲の8.「マイ・アイディアル」。ブランフォードは1、2、3、6、9でソプラノを、残りの4、5、7、8でテナーを吹く。ソプラノ奏者としては最盛期のウェイン・ショーターと双璧といって過言ではないほどテクニックといい、洗練された表現美といい、まさに貫禄充分。6.「アズ・サマー・イントゥ〜」における冒頭のフリーなパッセージなどは、彼がかつてクラシックのアルバムを吹き込んだときの柔らかなヴィブラートの感触を思い出させる。そのポエジーなタッチは俳句風でもあり、スケッチ風でもある。ボーナス曲の「トリート・イット・ジェントル」は曲想が他の8曲と違って、古き佳き時代をふとしのばせるが、これを聴くと彼がニューオリンズ生まれの演奏家だったと気がつく。シドニー・ベシェが懐かしい。
一方のテナーはどうか。モンクの「テオ」ではコールマン・ホーキンスを、「マイ・アイディアル」ではソニー・ロリンズを彷彿とさせるが、その力強さはまぎれもなく彼がホーキンス〜ロリンズ系であることを示す。「マイ・アイディアル」で「アイ・ヒア・ラプソディー」を引用するのを聴いて、引用が頭抜けてうまかったデクスター・ゴードンを思い出した。そういえば、ゴードンだって本質的にはホーキンス〜ロリンズ流派。その「アイ・ヒア・ラプソディー」の引用をカルデラッツォも踏襲するところが面白いといえば面白い。というわけで、存分に楽しむことができた新作であった。(2012年5月11日記 悠 雅彦)
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