#  922

『Roberto Magris Trio/One Night In With Hope And More...vol.1』
text by 望月由美


JMOOD Records
J-MOOD 003

Roberto Magris (p)
Elisa Pruett (b)
Albert”Tootie”Heath (ds)

1. Happy Hour (Elmo Hope)
2. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
3. Theme From “The Pawnbroker” (Quincy Jones/Billy Byers)
4. I Didn’t Know About You (Duke Ellington)
5. Elmo’s Delight (Roberto Magris)
6. Half May (Herb Geller)
7. East 9th Street (Andrew Hill)
8. My Heart Stood Still (Rodgers/Hart)
9. Fire Waltz (Mal Waldron)

プロデユーサー:Paul Collins
エンジニア:George Hunt
録音:2009年12月15日
スタジオ:Chapman Recording Studios, Lenexa, Kansas, USA

 アルバムのタイトルどおり、ロベルト・マグリス (p)トリオがエルモ・ホープをはじめ、多くのピアニスト、コンポーザーの名曲をカヴァーしたもので、タッド・ダメロンからデューク・エリントン〜マル・ウォルドロンにいたるまでその対象は広範囲でジャズ・ファンの興味をそそる。とりわけ、アンドリュー・ヒル (p) をとりあげる辺り、かなり渋いマニアックな選曲である。しかし、このジャズの先駆者たちの面影をつないでみると、一本の道筋が見えてくるではないか、つまり本作は単なる名曲のカヴァー集ではなく、ロベルト・マグリスのジャズへの憧憬、畏敬の念がこめられていることが演奏の合間から伝わってくる。
 当然のことながら先ずはジャケットに目がゆく。帽子をかぶったマグリスが椅子に座り楽譜を見ている。ブルーノート盤の『Elmo Hope Quintet』のジャケットの“ぱくり”である。さらに裏ジャケにはマグリスの前で猫がマグリスを見上げている。オリジナルのエルモ・ホープ盤では犬がエルモ・ホープを見つめている構図だったが、マグリスはその犬を猫に置き換えてパロディー化しているのである。しかし、演奏そのものはごくオーソドックスなピアノ・トリオである。
 ロベルト・マグリス (p) は本作で初めて知ったがヨーロピアン・ジャズ通の間ではよく知られているアーティストのようである。イタリア、トリエステの出身、オスカー・ピーターソン (p)のMPS盤『The Way I Really Way』を聴いてジャズ・ピアノの道に進んだというが、ここではピーターソンほどのダイナミズムは感じられないものの、軽快でスインギーに弾きまくっている。(2)<If You Could See Me Now>はビル・エヴァンス (p) の愛奏曲でもある。数多く残されたエヴァンスの名演のなかでも『Moon Beams』(Riverside) が極めつきだと思うが、マグリスもゆったりとリラックスした軽妙なバラードに仕立てている。エリントンの(4)<I Didn’t Know About You>も多くのピアニストが好んでとりあげる曲だが、日本では渋谷毅 (p) のソロ・ピアノがもっともしっくり合う曲である。ここでのマグリスもエリントンへの敬意がしっかりつたわってくる、曲のもつ力かもしれない。
 また、もうひとつトリオの活力となっているのがドラムズのアル・ヒース。相変わらずというか、当然のようにタイトでコンパクトなドラミングは健在で、アルの洗練されたリズムが居心地のよいアクセントとなっている。(8)<My Heart Stood Still>ではマグリスと小気味のよい4バースでセンスの良さをアピールしている。アルは現在76歳になるがトシコ&マリアーノ・カルテットで知って以来、センスのよさは変わらないし、アルの陽気な笑顔が音から浮かび上がってくる。因みにレコーディング・データによるとアルはカンザスで本作のレコーディングを行った翌日にはニューヨークに移動しジャズ・クラヴ「スモールズ」でイーサン・アイバーソン(p)とライヴ・レコーディング(http://www.jazztokyo.com/five/five702.html)を行っている、まだまだ元気だ。
 このアルバムにはラストの(9)<Fire Waltz>が終わると<Audio Notebook>と称するアナウンスが入っている。「J-MOOD」レーベルのオーナーでプロデューサー、ポール・コリンズ氏がレーベルのポリシーやレーベルのアーティストについてのスピーチが収録されていて、なにか販促用のツールのような一風変わった仕上げである。(2012年6月 望月由美)

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