# 933
『Filipe Felizardo/Guitar Soli for the Moa and the Frog』
text by 伏谷佳代
SHHPUMA Trem Azul ; 2012 SHH001CD |
Filipe Felizardo ( フィリペ・フェリザルド;ギター&アンプリファー)
1. Against the Day
2. A Conference of Stones and Things
Previous. i) The Dance of the Moa
3. A Conference of Stones and Things
Previous. ii) Particulars of a Decent
4. A Conference of Stones and Things
Previous. iii) Of Obsidian, Doubly Refracting
5. A Conference of Stones and Things
Previous. iv) De Vi Centrifuga
6. U
7. Of the Excrement and the Frog
8. The Dreidl upon the Nose of the Sphynx
収録:2011年9月リスボン
ミキシング&マスタリング:Carlos Nascimento (カルロシュ・ナシメント)
プロデューサ:Filipe Felizardo
カヴァー写真:Sara Rafael (サラ・ラファエル)
デザイン:Travassos (トラヴァッソシュ)
リスボン発、Shhpuma Label始動
革新的なレーベルとして世界的に注目をあつめるポルトガルのClean Feedが、このほど傘下に新ラインを立ち上げた。その名もShhpuma(シュプーマ)。新レーベルではさらにポルトガルのクリエティヴ・シーンに密着しつつ、これまでのコンテンポラリー・ジャズ路線からさらに裾野を広げてカタログ化してゆく予定だ。レーベル第一弾として、Tiago Sousa(p)/Pedro Sousa(sax)/Travassos(tape & object manipulator)による新トリオ”Pao”(パォン)のデビューと、リスボンの実験シーンで異彩をはなつギタリストFilipe Felizardo(フィリペ・フェリザルド) のソロ・ワークの2作がリリースされた。今回は後者にふれてみたい。
表面の輝かしき裏切りの連続...フェリザルドのドローン世界
フェリザルドはこれまでも自主レーベルで2作をリリースしているが、この『Guitar Soli〜』もふくめ、いづれもドローンやルーパーなどのデヴァイスを駆使したギター・ワークである。本人はミュージシャンでありヴィジュアル・アーティストでもあるという多面体、なかなかにエッジの効いた深遠なるイメージの投影がみえる。ミュージシャンとして、ふだんはガブリエル・フェランディーニ(ds)や前述のペドロ・ソウザなどとトリオなどでも活躍しているという。サウンドスケープ的な音楽が前衛シーンを担うのは、ポルトガルに拠らず時代の潮流なのか、とても多くを語る造形である。タイトルをみてすぐに、これは何かストーリィをもとにイメージされた音楽、と察しがつく。聴くまえにやたらと文字情報を追うのは野暮であるので放置しても、Moaは絶滅した無翼の恐鳥であるし、ファースト・トラックがトマス・ピンチョンの小説と同名なのにも気がついた。考えてみれば、この時点で聴くほうは勝手に頭のなかで形づくられるイメージとたたかうことになるわけだ。あまり気楽に聴ける性質のものではない。
こうした内的な相克こそ演るほうにとってのテーマであり、嘘偽りのない実況なのではないか。現出される音がそれ自体に含みうる真逆の効果。音楽というのはもともと流れることを身上とするわけではあるが、音がメロディらしさを刻みはじめるとなんとも居心地がわるくなる不思議なアルバムだ。逆に音像が長々と伸ばされたり放置されたり、単純運動のリフなどに見舞われるとき、音への執着がましてくる。静止や閑寂がエネルギーの溜めであるというパラドックス。じつは繰り返しほどの激情はないという皮肉な相克である。表現したいこと、を目指して音が結集することはあまりなく、例えれば話されている言葉の意味よりその裏が無意識に雄弁であるような感覚。フレットの網の目に攪拌されつつも、脳裏は別次元に捉われる。
楽器に身体性などという小難しい単語をもちこむことはいともたやすい。しかし、体の一部としての楽器からエナジーが濾過される、などという素直な状況はここにはない。逆だ。自己内部へ降りてゆくための、外付けの不自由なツールであることには変わりなく、だからこそ終着点もない。深く沈殿することが必ずしも過去を向くことを意味しない。時制もない世界では光明も仄みえる。そもそも、はじき出された音がある一定の属性に見舞われてしまうことは自然の道理で、初めから100%の想定は不可能だ。あとは空間操作による増幅しかないだろう(デヴァイスや楽器のテクニカルな面を素人が述べるまでもなく)。物理的な原理を揺さぶる試み。出たところを受け入れながら切り開いてゆく感じがいい。偶然と必然、大胆と入念、繊細と壮麗がたえず反転しつつ同居している(*文中敬称略。伏谷佳代 Kayo Fushiya)。
【関連リンク】
http://www.tremazul.com/?q=loja/guitar-soli-moa-and-frog
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.