# 936
『キース・ジャレット・クァルテット/スリーパー』
text by 須藤伸義
ECM/ユニバーサル UCCE-1152/3 3,600円(税込) |
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キース・ジャレット(p, perc)
ヤン・ガルバレク(ts,ss,fl,perc)
パレ・ダニエルソン(b)
ヨン・クリステンセン(ds,perc)
CD1 :
パーソナル・マウンテンズ
イノセンス
ソー・テンダー
CD2:
オアシス
チャント・オブ・ザ・ソイル
プリズム
ニュー・ダンス
録音:ヤン・エリック・コングスハウク@東京・中野サンプラザホール、1979年4月16日
ミキシング:ヤン・エリック・コングスハウク+マンフレート・アイヒャー@レインボウ・スタジオ、オスロ、2012年
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー
コンサート制作:鯉沼利成(あいミュージック)
協力:トリオ・レコード/ECM/Bose
キースが北欧の精鋭3人と組んだ通称“ビロンギング”もしくは“ヨーロピアン・クァルテット”が1979年の春に敢行したツアーの記録は、5月のヴィレッジ・ヴァンガード(ニューヨーク)での演奏が『Nude Ants』(ECM 1171/1172)として最初(1980年?)に発表された後、東京中野サンプラザでの録音が『Personal Mountains』(ECM 1382)として、1989年に陽の目を見た。『Personal Mountains』 の正確な録音日は分からないが、現在一番詳細だと思うキースのディスコグラフィー(注1)に拠ると、4月16−17日に録音された事になっている。しかし、今回30年以上の時を経て発表された本作品には、同ホールで4月16日に録音されたと明記されている。聴き比べてみたが、ダブった演奏は収録されていないので『Personal Mountains』は『Sleeper』録音の翌日、4月17日に演奏された作品とみなして良いように思う。
注1: http://www.keithjarrett.it/Approfondimenti/Keith_Jarrett_Discography.pdf
一方、曲目は大部分重複しており浮遊する16ビートが魅力的なキース流‘ラテン・スタンダード’〈So Tender〉以外は、既出2作品ですでに耳にする事ができる。とくに澄んだ情緒が沁みる〈Innocence〉とエスニックな香り高い大曲〈Oasis〉は、3作品すべてに収録されている。しかし ‘スポンタネイティー’(自発性)を最優先するキースの意向をメンバー全員が体現し、いずれの録音も‘新鮮さ’を保っている。
だが、後日録音された2作品に比べ、『Sleeper』の演奏は全体的に‘固さ’が目立つのも事実。それはとくにガルバレクの演奏に顕著だ。彼は、天才的な閃きを垣間見せるメロディー・センスを備えたヨーロッパのみならず全ジャズ界でも希有な才能を誇るサックス奏者だが、ソロは短めだし、いまひとつ演奏にのめり込めていない躊躇が感じられる。フィヨルドに響く木霊を想起させる鋭利なリード音だけは、彼の存在感を示し、このコンボの色彩感を高めてはいるのだが...。
いま一歩の出来のガルバレクに比べ、リズム・セクション二人の調子はすこぶる良い。クリステンセンの‘トレードマーク’雪の結晶の煌めきを思わすライド・シンバルが、クリスタルな録音でヴィヴィッドに迫ってくるし、ダニエルソンの精密でしなやかなベースワークも、低音域が延びる録音のせいか、いつも以上に重厚な迫力に溢れている。キースは、その好調なリズム陣をバックに、イマジネイティブなソロを楽しそうに展開している。ガルバレクは、このユニットでの活動中、3人の一体感溢れる演奏に傾聴する余り演奏に入るのを度々ためらったそうだ。『Sleeper』は、まさにそんなコンサートだったのだろう。
総括すると、この時のツアーを未だ‘体感’していない諸氏は、キース自ら「スモール・コンボにおける最良のグループ・ダイナミズムを体現している」(注2)と評した〈Sunshine Song〉収録の『Nude Ants』、シットリとした情感に長ける『Personal Mountains』を発表順に、聞くべきだと思う。しかし、録音状態が一番素晴らしい『Sleeper』も、真に自発的な即興演奏が持つ刹那的な魅力を十二分に堪能できる作品には、違いない。
注2:キースのJazzTokyo掲載インタビュー
http://www.jazztokyo.com/interview/v60/v60.html
http://www.jazztokyo.com/interview/v61/v61.html
Nobu Stowe (須藤伸義)
P.S. 前述のディスコグラフィーに掲載されている、キースが19歳の頃ボストンで組んでいたトリオの貴重な録音を発見。地元のピアニスト=テッド・ノールトン(Ted Knowlton)のハウス・パーティーでの演奏との事。ベースは、スティーブ・レイシーや加古隆との共演で有名なケント・カーター。ドラムは、マサチューセッツ州周辺で活動中(?)のダニー・フラートン(Dannee Fullerton)。売れっ子ドラマーのジョーイ・バロンは、彼の教え子の一人らしい。下記のリンクからMP3ファイルがダウンロード可能: http://www.tedknowlton.com/music/Keith.htm
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