#  938

『SOLO/渡辺玲子』
text by 丘山万里子 photos by 林 喜代種 7月19日@紀尾井ホール


フォンテックFOCD9552
2,800円

演奏:渡辺玲子
曲目:イザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番ホ長調Op.27-6」
    ヒンデミット「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番Op.31-1」
    バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ長調BWV1006」
    佐藤眞「無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲」
    エルンスト「シューベルトの<魔王>による大奇想曲Op.26」
    エルンスト「多声的練習曲第6番<夏の名残りのバラ>」

録音:13〜15 sep.2010, 3&4 Feb.2011
    @Karuizawa Ohga Hall
プロデューサー:Akira Matsuda
レコーディング・エンジニア:Norio Sato

 15歳での日本音楽コンクール最年少優勝ののち、世界を舞台に活躍を続けてきた渡辺玲子。1985には全額奨学生としてジュリアードに留学、現在NY在住のヴァイオリニストである。折りにふれ聴いてきたが、その都度成長の跡が著しく、7月のソロ・コンサートは無伴奏作品を集めた意欲的なプログラムを組んだ。あいにく筆者は聴けなかったが、このディスクはそのコンサートに含まれる楽曲を並べたものである。
 傑出しているのはバッハのあとに弾かれた佐藤眞の「無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲」(これはコンサートでは取り上げられなかった)。その前にバッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」を置くことによって、佐藤作品がバッハへのオマージュであることが浮き彫りにされる。バッハには何もかもがある、と痛感させつつ、独自の語法で、時に飛ばし弓、ピチカート、重音、グリッサンド、フラジョレットと多様な表情を見せる。使用楽器の1736年製グァルネリ・デル・ジェス<ムンツ>の持つ深く、どこか翳りを帯びた音色をよく生かし、丁寧に、かつスリリングに弾き切り、説得力のある演奏となっている。
 あとに続くエルンスト作品、「シューベルトの<魔王>による大奇想曲」は、先般、牛牛の演奏でリスト編曲の<魔王>を聴いたばかりだったので、ピアノとヴァイオリンの相違が興味深かった。ピアノは多彩な装飾に耳が奪われたが、ヴァイオリンは凄みのほうが勝る。疾駆する馬の連打音がいっそう不気味である。同じくエルンストの「多声的練習曲<夏の名残りのバラ>」は、テーマをしっとりと歌い上げつつ、ヴィルティオジテを遺憾なく発揮し、ゆるがない技量を見せつける。
 前半はイザイ、ヒンデミット。いずれも高い集中力で、両者の凝縮された音宇宙を描き出している。本人が語るように、渡辺の<今>が望見できる一枚である。(丘山万里子)

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