#  941

『CUG. JAZZ ORCHESTRA/HOPE』
text by 悠 雅彦


CUG Records RKCU-2610
¥2,500(税込)

1. Hope
2. Night And Day(夜も昼も)
3. A Way Forward
4. Matrangas Tonk
5. The Days of Wine And Roses(酒とバラの日々)
6. The Deacon
7. Tenderly
8. Purple Heart
9. Smile
10. St. Thomas

Tp:渡辺勉(1を除く)宮本やすし ジェイ・トーマス(10を除く)岡崎好朗 小松悠人/Tb:谷口知己 酒本廣継 ドナルド・ギブソン 水野彰 (b-tb、tuba)/Sax:小濱安浩(Leader,ts,fl) 椿田薫(as,ts,fl) マーク・テイラー(as,fl) 岡崎正典 (ts,cla) 岩持芳宏(bs,b-cla) 池田篤(as-9)/Rhythm:水野修平(p) 島田剛(b) 黒田和良(ds-5,9を除く)倉田大輔(ds-5,9のみ,perc-10)

録音:坪井義幸@T2 Audio Studio Hackensack 静岡 2012年3月22,23,24日

 CUGジャズ・オーケストラの新作を、リーダーの小濱安浩氏から送っていただいた。最近は東京で演奏する機会に恵まれないが、2003年1月に神田の「TOKYO TUC」で演奏した一夜は、清新みなぎるビッグバンドの熱狂的音圧の快感を体験した素晴らしい思い出として今も脳裏にある.さっそく新聞(朝日)のステージ評で取りあげたが、見出しに躍った『活気と気概(が)、前面に溢れる』、まさにその通りのライヴ演奏だった。
 あれからまもなく10年。この新作を聴いて、今なおCUG (Continued in the Underground Jazz Orchestra) が、サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラの演奏をモデルに新しいビッグバンド・ジャズの創造を目指した小濱安浩の情熱に翳りがないことを確認することができた。すなわち、結成以来23年、CUG が目指してきた人の輪の力で生み出す和のオーケストラ・サウンドには、いささかの揺らぎもない。実際、デビュー直後からメンバーとして活躍するアルトのマーク・テイラーやトランペットのジェイ・トーマスの名前を見出すことができるし、同様に結成時から協力を惜しまないピアニストで作曲家のアレン・ファーナムが素敵な作品を提供している。そればかりではない。岡崎兄弟(好朗、正典)らの流麗なソロや、マーク・テイラーの艶やかな音色とブリリアントなプレイが本演奏の魅力の一半に寄与しており、アレンジ面でこのオケになくてはならぬピアニスト水野修平が健在なのを見ても、小濱安浩のいう全員の輪が生み出す和の迫力と喜びがサウンドの行間を縫って流れてくるや、聴く者の琴線に触れる温かな響きとなって心を捉えるCUG ならではの心地よさが不変だということが分かるのである。それは均整のとれた美しいアンサンブルや、乱れることのない快適なスウィング感にはっきり認められる。小濱が敬愛するサド=メル・オーケストラがそうだった。拠点とする名古屋ばかりでなく、ツアーで回った米国の数都市のファンや関係者の熱心な応援があったからこそ、23年の長きにわたってオーケストラとしての高度な質を保ち続ける磁場を持つことができたのだろう。
 オープニングのタイトル曲「ホープ」が前述のファーナム提供の新曲(穐吉敏子の同名曲に肩を並べる味わい深い作品)だが、CUG の精緻なアンサンブルのモデルともいうべき好例の1つとなっている。ファーナムが何を念頭にこの曲を書いたのかは承知していないが、もしかすると東日本大震災の犠牲者や被災者への思いを作品に託したのかもしれない。お決まりのソロがない分、アンサンブルの美しい響きが際立つ.バランスのとれた分離のいい自然体の録音(坪井義幸)に負うところも大きいと聴いた。#3と#8が水野修平のオリジナルだが、加えてスタンダード曲やロリンズの名高いオリジナル曲を含む4曲(#2,#5,#9,#10)のアレンジも手がけており、彼が依然CUG にとって欠かせない存在であることを示す。中では#3「ア・ウェイ・フォワード」が素晴らしい。
 ここではアンサンブルの色彩性さえクローズアップされるかのよう.酒本廣継(tb)や水野自身のソロも聴きごたえがあるし、これらのソロの前のアンサンブルは一聴に値する.#5「酒とバラの日々」や「スマイル」でのマーク・テイラーのアルト・ソロには、イタリアの優美な彫刻を間近に見るようでほれぼれさせられた。そのほか岡崎兄弟のソロ、#10での#3テナーによるバトルやサックス・ソリなど聴きどころが随所にある.それ以上に、ビッグバンドの派手な側面には蓋をして、地道にオーケストラならではの和の美しさをアンサンブルに託したサウンド作りが印象深く、スウィングの快感にも不足のない1作として推奨したい。(悠 雅彦)

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