# 943
『アケタ・ミーツ・片山広明/マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ』
text by 望月由美
アケタズディスク MHACD-2637 2,800円(税込) |
明田川荘之 (p,ocarina)
片山広明 (ts)
畠山芳幸 (b)
楠本卓司 (ds)
1. イントロダクション
2. 仲直りの道(塩田泉)
3. 火山休のアヴェ・マリア(火山休)
4. ファイアー・マウンテン(明田川荘之)
5. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ(Guy Wood)
6. アフリカン・ドリーム(明田川荘之)
7. 片山ブルース(明田川荘之)
プロデューサー:明田川荘之
エンジニア:島田正明
録音:2010年8月31日 東京・西荻「アケタの店」にてライヴ収録
例によって西荻「アケタの店」でのライヴ録音。アケタこと明田川荘之(p)のパワーに圧倒される。全身を前後左右にゆすり、バド・パウエルの10倍ほど大きい唸り声をあげる。ピアノと格闘し、ピアノと愛を交わす。ピアノとの愛が爆発した時になんともいえない哀愁がただよう。「アケタの店」全体が昂揚感につつまれる。いつもながらアケタさんの集中力には耳を奪われる。
その明田川荘之トリオに片山広明(ts)が加わった4重奏。片山広明(ts)は持病をかかえながら演奏の日々を続けており当日も体調が思わしくなかったとのことだがアルバムで聴くかぎり体調不良など感じさせない。梅津和時(sax)との「D・U・B」や林栄一(sax)との「デ・ガ・ショー」の頃のような過激さはややうせたものの音への執着はすさまじく、心の底から振り絞るように音を紡ぐ。まさに入魂の演奏である。
そして畠山芳幸(b)、楠本卓司(ds)が二人の差し迫った情況を見守りつつ背後からリズムで援護を続ける。ドラムの楠本卓司はフロントのアケタと片山に何が起こっていようがおかまい無しにシンバル・レガートを送り続ける、マックス・ローチのように。長年「アケタの店」で演奏し、アケタの空気を吸ってきた楠本だから出来る至芸だ。この二人のリズムによって本アルバムはジャズの伝統と結びつく。
(5)<マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ>は本アルバム唯一のスタンダード。アケタさんのライナー・ノーツによると二人が共演する時は毎回演奏している曲だそうだが、このときはいつもと事情が違っていたという。アケタさんはフィジカルな面で片山がとても演奏できる情況にないと感じていたそうである。そういう意識で聴きなおすと確かにテーマのあと、アケタがソロを始めた途端に片山もソロを始める場面がある。両者が並行してソロを続けるという不測の事態が起こっていたようであるがアルバムとして聴く限りはかえってスリルがあって面白い。ここでのアケタはジョニー・ハートマンよりもコルトレーンよりも甘く<マイ・ワン>を唄う、片山も迫真のソロを聴かせる、おそらく本作をリリースする決め手になったのではないか。
アケタはピアノのほか(2)<仲直りの道>と(6)<アフリカン・ドリーム>でオカリナを吹いている。ピッコロの華やかさと能管の強靭さを併せもったオカリナはいつ聴いてもロマンティックな気分にさせられる。フルートやオーボエ、イングリッシュ・ホルンなどジャズの分野であまり使われていなかった楽器をソロ楽器として開拓してきたのはサックスやクラリネットなどの管楽器をマスターしているミュージシャン達であった。アケタはピアニストであり、管楽器奏者ではない。オカリナのジャズ奏法は全て自ら考案し開発してきたというまさにジャズ・オカリナのパイオニアで、一般的に言われている素朴な、などという表現では形容しがたいペーソスとグルーヴ感は独壇場である。一度、全編オカリナをフィーチャーした作品を聴いてみたくなる。
(3)<火山休のアヴェ・マリア>は片山が抜けたアケタ・トリオの演奏でアケタの纏綿とした愁いのあるピアノが聴ける。そしてライヴなので曲は継ぎ目なく(4)<ファイアー・マウンテン>へとつながる。アヴェ・マリアの世界から一転してマヘリア・ジャクソン、ゴスペル・ライクな片山のテナーがほえる、豪放さを内に秘めてほえる、スピリチュアルだ。
あっけらかんとした明るさで自分の世界を展開するアケタこと明田川荘之の姿は昔から変わっていない。アケタは以前<ジャズは衰退しないでいろんなジャンルを巻き込んじゃって、ジャズは生き続けると思う、絶対残る>と語っていた。「アケタの店」を始めて38年、着実に自らの信念を実践してきたアケタのパワーは不変であり不動だ。そしてどこか郷愁に近い親しみを感じるのは、いま、時代がやっとアケタさんに追いついたのだ。ダラー・ブランドの哀愁と決してスマートとはいえないその強靭さにおいて本作はまさにマイ・ワン・アンド・オンリーな世界を築き上げており、数あるアケタのアルバムの中でも代表作の一枚であり、「アケタの店」の存在感とパワーを示す作品である。また、アケタのお父さん明田川孝の作品である彫像を用いたジャケットも秀逸で音を聴きながら見つめると不思議な安らぎを漂わせていて心がなごむ。(望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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