#  945

『Nils Wogram Septet/Complete Soul』
text by 伏谷佳代


NWOG Records 004 (2012年8月24日発売)

Nils Wogram Septet:
Nils Wogram(ニルス・ヴォグラム;tb, melodica)
Claudio Puntin(クラウディオ・プンティン;cl)
Mattias Schriefl(マティアス・シュリーフル;tp)
Frank Speer(フランク・シュピーア;a.sax)
Tilman Ehrhorn(ティルマン・エアホルン;t.sax)
Steffen Schorn(シュテッフェン・ショルン;b.sax, b.cl)
John Schroeder(ジョン・シュレーダー;dr)

1. Complete Soul
2. Varunaprya
3. Karnakangi
4. Song for Ahmed
5. Weakness is your Friend
6. Motivation
7. Zuerihorn
8. External Wind

All Composition & Arrangements by Nils Wogram
Total Time; 65分

録音:2011年1月@Funkhaus Berlin Nalpastrasse, Studio P4
ミキシング:2011年5月@Hansahaus Studio Bonn
エンジニア:Olver Bergner(オリバー・ベルクナー)
マスタリング:Chris von Rautenkranz(クリス・フォン・ラウテンクランツ)
プロデューサ:Nils Wogram

きわだつ7つの個性、親和する音楽性-----ニルス・ヴォグラム・セプテット第2作!

ニルス・ヴォグラムがセプテットの新アルバムを制作中との情報を得たのはちょうど1年ほど前である。心待ちにしていたがこのほど8月末に自主レーベルより発売となった。ニルスといえば、サイモン・ナバトフとのデュオ、ヘイデン・チスホルム(reeds)やヨッヘン・リュッケルト(dr)など70年代生まれの粒ぞろいの実力派ばかりによるクァルテット「Root 70」、或いはバルカン出身の名ドラマー、デジァン・テルツィックを迎えた「Nostalgia Trio」など、いずれも完全生楽器に徹したユニークなプロジェクトが次々と浮かぶ。そのなかにあって、このセプテットは規模の点からも編成のユニークさからも際立つ存在である。ブラス2+リード4+ドラムスというエクストリームな編成、しかもメンバーはそれぞれ多忙を極める第一線だけあって、ライヴの回数自体が極めて少なく、巡りあえれば幸運、というものだ。8年ほど前、このセプテットの1stである『Swing Moral』(enja)のレコ発をベルリンで聴いたが、その時の興奮は忘れられない(このアルバムを2004年度のベスト・アルバムに選出したドイツのライターは数多くいた)。

メンバー全員がインストゥルメンタリストとして卓越しており、あらゆる展開で音楽がのたうち回るさまを、しつこいほど味わえる。音に満たされつきまとわれる快感。技巧やインプロのセンスだけではなく、ニルスによるコンポジションは毎回巧緻であり、単なるエネルギーの暴発に終わらぬ、ハーモニーのうつくしさ、頭脳的な覚醒をも同時にもたらされる。扱う楽器は違えど、音響面からの音楽の把握の仕方に一定の親和力をもつメンバーが集まっているのだろう。ソロ部分での思い切りのよい分離と浮き立ちの巧妙さはもちろん、互いの音がオーバーラップする際のスピードも鮮やかだ。磁力に曳かれて蹉跌が移動するかのような容赦なきムーヴメント。それはそのまま音楽の吸引力であり魔力であろう。本質を突くのに適った、じつにラディカルな楽器編成なのだ。

セプテットとしては2ndとなる本作も、前作と同様、多種多様な音楽のイディオムが盛り込まれている。バルカンや東南アジアのエスニックな要素もひきつづき色濃いが、ロック的な断片も随所にみえる。こうした雑多なムードを有機的に絡ませるうえで、やはりドラマー選びがモノをいうが、瞬時に音楽を換骨奪胎する生来のポリリズム感覚を備え、変拍子を採らせたら随一のジョン・シュレーダーはまさに適役である。ニルスがメロディカをもつところでは、パーカッションが双頭になる感覚をおぼえ、サウンドがぐっとタイトに野太くなる。前作ではメロディのカラフルなフロウが印象にのこっていたが、本作では「ブレス」と「叩くこと」によるエネルギー堆積を、よりフィジカルに最短距離で味わえるようにおもう。筋肉のうごきが意気込みやコンセプトに負けていない、リアルなドライヴ感。だからこそ厭味なくカッコよく、知覚が研ぎ澄まされてゆくのを実感する。

ヨーロッパではコンテンポラリー・シーンの実力派・現在進行形だが、日本で彼らの演奏を聴くことはきっとないのだろう。ため息。(*文中敬称略。2012年9月15 日。伏谷佳代/Kayo Fushiya)


【関連リンク】
http://www.nilswogram.com/
http://www.puntin.de/
http://www.myspace.com/matthiasschriefl
http://www.tilmanehrhorn.com/
http://www.steffenschorn.de/
http://www.john-schroeder.de/

http://www.nwog-records.com/
http://www.jazzrecords.com/enja/9166.htm

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