# 946
『三輪洋子/アクト・ナチュラリー』
text by 稲岡邦弥
ボストンを根拠に活躍するピアニスト三輪洋子の6作目。三輪のアルバムでは自作曲を集めたデビュー・アルバムの『イン・ザ・ミスト・オブ・タイム』(徳間Japan、2001年)が繊細なフェミニンさとソフィスティケーションで心に残っていたが、このアルバムで聴かれる三輪は自信がみなぎり、余裕さえみせ15年に及ぶ滞米生活の成果が窺えるのだ。アルバム・デビューから10数年の時を経た三輪のもっとも顕著な変化はジャズ、アメリカとの見事な同化ではないだろうか。あるいは、ジャズをすっかり自家薬籠中のものにしてしまい、ジャズをジャズと意識せず自国語のように自由闊達に演奏していると言い換えても良い。ジャズ・ミュージシャンだから当たり前だろうと言ってしまえば身も蓋もないが、日本人にとってジャズを手玉に取ることはそれほど容易(たやす)いことではないはずである。
イントロの仰々しさで構え気味になってしまうのは、マッコイ・タイナーの<インナー・グリンプス>。意外なオープニングだが歌舞伎の口上のようなものか。軽快なランニング・ベースに乗って女流マッコイの世界が展開する。世界を共にするのは新規加入のウィル・スレイターと長年の同志スコット・グールディング。レコーディングでの一期一会的ビッグ・ネームの起用を頑に拒み、何よりもトリオのコミュニケーションを重要視する三輪だが、ウィルの起用は成功、会話が弾む。イヴァン・リンスのサンバからジョン・レノンの<ジェラス・ガイ>。これぞレノン節が本編では三輪のフィールのジャズに。ここでもウィルのソロに耳が惹かれる。唯一のジャズ・スタンダード、ジョニー・ホッジスの<スクワッティ・ルー>では3者が存分にハード・スウィンガーぶりを発揮する。続いて、レイ・チャールス、ニール・ヤング、エミリー・クレア・バーロウ、恩師が書き下ろしたオリシナル、そしてエンディングはコール・ポーター。ニール・ヤングの<オール・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート>のレイド・バックした弾き込み方など、堂々としたものである。
これらの選曲は、アメリカのクラブでのギグを念頭に置いたものだそうだが、本誌が更新される頃には来日ツアー中だから、一夜日本のクラブに身を置いて彼らのスインギーな演奏に身を委ねてみたらどうだろう。ボストンのクラブでのライヴ演奏を収録した『Live at Scullers Jazz Club』(Jazz Cat Amnesty Records) でボストン・フェニックス紙の「2012年度ベスト・ジャズ・アクト」 賞に輝いた彼らの演奏を堪能できるに違いない。
三輪洋子は、神戸の甲陽音楽学院からバークリー音大に奨学金を得て留学、卒業後はケヴィン・マホガニー(vo)のアシスタントなどを務めながら勉励、昨年、秋吉敏子以来日本人では初めてという助教授に就任した。(稲岡邦弥)
* 三輪洋子ジャズ・トリオ ジャパン・ツアー2012
http://www.koyo.net/yoko_miwa_japan_tour_/top.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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