# 949
『Yaron Herman/Alter Ego』
text by 望月由美
ACT Music ACT 9530-2 |
Yaron Herman (p)
Emile Parisien(ts)&(ss)
Logan Richardson (as)
Stephane Kerecki (b)
Ziv Ravitz (ds)
1. Atlas and Axis (Yaron Herman)
2. Mojo (Yaron Herman)
3. Heart Break Through (Yaron Herman)
4. Your Eyes (Yaron Herman)
5. La confusion sexuelle des papillons (Yaron Herman)
6. Ukolebavka/ Wiegenlied (Gideon Klein)
7. From Afar (Yaron Herman)
8. Sunbath (Yaron Herman)
9. Homemade (Yaron Herman)
10. Hatikva (Samuel Cohen)
11. Mechanical Brothers (Yaron Herman)
12. Madeleine (Yaron Herman)
13. Kaos (Yaron Herman)
プロデューサー:Yaron Herman & Christophe Deghelt
エンジニア: Philippe Gaillot
録音:@Recall Studio, Pompignan, France, February 25 - 28, 2012.
ヤロン・ヘルマンのACT移籍第2作目で、これまでソロあるいはトリオを中心に作品を発表してきたヤロンの初めての管入りの新作である。管入りというとピアノ・トリオ・ファンには敬遠されがちであるが、本作の主役はあくまでもヤロンなのである。とにかく全編にわたってヤロンの粒立ちの良いピアノが聴ける。どちらかといえばキース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットのような透明感をたたえたリリシズムが満ち満ちている。
ヤロンがミッシェル・ポルタル(reeds)等のホーン奏者と共演していることは情報としては知っていたが、実際の演奏を聴くのは今回が初めてである。ヤロンのユニットは一般的なワン・ホーン・カルテットとは趣を異にしている。全曲が細部にいたるまで緻密にアレンジされていてアドリブのたらい回しのようなところは一箇所もなくヤロンのイメージで統一されている点は、ややもすれば先祖がえりが日常化している最近のコンテンポラリー・ジャズとは次元の違う斬新な作品である。
ヤロンのピアノは前作『フォロー・ザ・ホワイト・ラビット』(ACT/Videoarts)にくらべ一段と洗練されていてみずみずしさを増している。タッチもよりダイナミックになり自信に溢れている。なによりも発想が豊かである。そしてその豊かな発想、センスのよさは作曲や編曲面にも顕著にあらわれていて、まるで物静かな風物詩のような情景が浮かび上がる。ヤロンのオリジナル曲以外の演奏はユダヤ系の作曲家ギデオン・クラインの(6)<Ukolebavka/ Wiegenlied>とイスラエル国歌(10)<Hatikva>の2曲、哀愁のこもった透明なサウンドからは自らのジャズのルートをアフロ・アメリカンではなく祖国イスラエルに求めるヤロンの心象が浮かび上がってくる。
エミール・パリジャン(ss,ts)はやわらかい深みのある音色で、サキソフォンがあらためて木管楽器であったことを想い起こさせてくれる。エミールはダニエル・ユメール(ds)やミッシェル・ポルタル(reeds)、ジャン・ポール・セリエ(b)等と共演を重ねているフランスのアーティストである。もう一人のリード、ローガン・リチャードソン(as)もクールなサウンドでヤロン・ミュージックの実現に貢献している。ローガンはカンザスシティーの生まれでバークリー音大の出身。ジョー・チェンバース(ds)やジェイソン・モラン(p)等と共演、ニューヨークを拠点に活動している。ステファン・ケレッキ(b)とジヴ・ラヴィッツ(ds)のコンビネーションも完璧でフレッシュなリズムを生み出している。バイオグラフィーをたどってみるとステファン・ケレッキはJ.F.ジェニー・クラーク(b)に学んだということだが深い艶やかな音色が美しい。ジヴ・ラヴィッツはヤロンと同郷、イスラエルの生まれでバークリー音大の出身。リー・コニッツ(as)やジョー・ロバーノ(ts)と共演、タイトなビートが持ち味でセンスのよいドラマーである。
1981年7月21日テルアビブ生まれ、31歳になったヤロン・ヘルマンの5枚目のリーダー・アルバム『Alter Ego』(ACT)には小さなさざなみがたえまなく続き、やがて大きなうねりを生み出すような心地よさが漂う。クールな静けさとダイナミックなパワーが交錯しヤロンの新しい世界が開けている。また、紛争の絶えない中東の平和を願う祈りのようにも感じる。
ヤロンのACT第2弾『Alter Ego』は管を加えたことにより、よりサウンドが豊かになり心の内にしみこんでくるような心象が深く刻み込まれている。前作から2年、ヤロンのリーダーシップが遺憾なく発揮されたアルバムである。ACTの配給元・ビデオアーツが来春ヤロン・ヘルマンの招聘を計画しているとのこと、ヤロンの来日を楽しみに待ちたい。(2012年10月 望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.