# 951
『Peter van Huffel’s Gorilla Mask/HOWL!』
text by 伏谷佳代
between the lines BTLCHR71232 (10月26日発売) |
Peter van Huffel’s Gorilla Mask:
Peter van Huffel (ピーター・ヴァン・ハッフェル;alto sax)
Roland Fidezius (ローランド・フィデツィウス;bass & noise)
Rudi Fischerlehner (ルディ・フィッシャーレナ―;dr & percussion)
1. Legendarious
2. Z
3. Fire Burning
4. Monkey’s Revenge
5. Dirty City
6. Haven’t You Learned Your Lesson Yet?
7. Iggy’s Secret
8. Fucked
9. Angry Monster
Total Time:57;35
録音:2011年10月8日@ケルン・マールヴェーク・スタジオ
エンジニア:クリスチァン・ヘック(Christian Heck)
マスタリング:アンドレアス・コリンスキィ(Andreas Kolinski)
プロデユーサ:ピーター・ヴァン・ハッフェル
カバー・フォト:フォルカー・デュック(Volker Dueck)
アーティスト・フォト:ロジャー・ロッセル(Roger Rossel)
ベルリン新世代;強力なロックビートのもとで炸裂する、「困難さ」を廃したジャズ魂
良質な作品を次々にリリースしているドイツのレーベルbetween the linesから、またしても面白いアルバムが出た。カナダ出身でベルリンを拠点に活躍するサックス奏者、Peter Van Huffel(ピーター・ヴァン・ハッフェル)率いるトリオ “Gorilla Mask”である。本国ドイツでも10月26日発売だから、まさに出来立てである。いまどきのジャズでジャンル越境的にさまざまな要素が入り乱れていることはもはや当然の事態となって久しいが、ジャズありハードロックありメタルあり民族歌謡ありフリー・インプロあり、しかしその実どれでもない姿を、颯爽とものすごいエネルギーで突きつけられる。つむじ風に通り抜けられた後のようだ。すぐれたバンドには共通することだが、意識に刻み込まれやすいメロディのシンプルさ、すとんと肉体に作用するビートのキレの良さ、目まぐるしく切り替わるどんな場面にも瞬時に没入する順応性、インストゥルメンタリストとしての卓越、それらがやすやすとクリアされている。
ピーター・ヴァン・ハッフェルの音を聴いて、たとえばフリーの猛者たちの咆哮を引き合いにだす人はおおいかもしれないが、彼だけの特有性を挙げるとすれば、推進することを片時も止めない強烈なビートの攻めである。スローなところでも黙考や沈黙は訪れず、心臓の鼓動だけは生き残る。ジャズのイディオムを十二分に消化・発展させたうえで、それらをハードロック的な怒涛のうえで何の惜しみもなく爆発させていく。のたうち回るような執拗なリフのうねりから、急激にロックビートがはじけ出る様は痛快(リフというものが聴き手にもたらす洗脳作用については確信犯だろう)。しかし、高度に血肉化された技術というのは、一見滅茶苦茶なことをやっても簡単には崩れない。三者が激しくぶつかろうが、どんな爆音であろうが、結果的にサウンドとしての広がりは損なわれていない。みごとな音圧とテンションに支えられつつ、音という険しくも広域なる崖を高スピードで昇降する感覚か。
こうしたバンドの肝となるのがリズム・セクションの活きのよさだが、アルバム全体を通して、まずベーシストの驚異的な能力の高さに釘づけとなる。ローランド・フィデツィウス...アコースティック部分の老獪ともいえるベースラインのなぞりの太さはもとより、ドローンの効かせ方、デヴァイス使いのセンスなどは、やはり衒(てら)いなく音楽を猟捕してきた若い世代のもの。生身の肉体がサンプラーのようなものだ。ドスの効き具合は随一。そんなベースに絹糸のような絡みつきのよさを見せるのがルディ・フィッシャーレナ―のドラムスである。繊細から豪胆へ瞬時に推移するアメーバのような拡充、多様な音色に驚く。初めて聞いた名だが、ティーンのころよりロックバンドで活躍し、アフリカからニューヨークまで世界各地を渡り歩いているという。
暫定的であれ、現在は全員がベルリンに居住している。2009年結成の若いバンドである。ヴァン・ハッフェルは以前ニューヨーク・シーンで活躍し、自身のクインテットは国際的にも高い評価を得ている。そのほか、同じくベルリン〜ニューヨーク基軸のサミュエル・ブレーザー(tb)やゲップハルト・ウルマン(cl)、ドイツで期待されるドラマーのひとりであるザミュエル・ローラー(Samuel Rohrer)などとのプロジェクトで活躍している。三人三様がなかなかの役者ぶりで、奏法面などに聴き手の意識を逸らさせない扇動力がある。まず、ノセるのだ。そのシンプルな境地は、困難さを廃すまでに練られたコンポジション能力と技術力が生むものなのだが。聴くほうが勝手に特殊奏法などという単語を使うのが陳腐に思われてくる。
バンド名の「ゴリラ・マスク」とは何の表明なのだろうか。虚実のあいだの実質上の大差なさか。或いは、生物学上の優勢を超えたところにあるラディカルの強さか。音楽においては、先立つものは知性よりグルーヴだ(*文中敬称略。2012年10月10日記。Kayo Fushiya)。
【関連リンク】
http://www.petervanhuffel.com/
http://www.rolandfidezius.de/
http://rudifischerlehner.net/
http://www.betweenthelines.de/
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