# 953
『日野皓正クヮルテット+1/Mr.Happiness+SlippedOut』
text by 稲岡邦弥
Super Fuji Discs/ディスクユニオン FJSP-171/172(2枚組) |
日野皓正(tp)
益田幹夫(p)
池田芳夫(b)
日野元彦(ds)
今村裕二(perc)
Disc:1
1. Pre-Dawn
2. Mr. Happiness
Disc:2
1. Feeling Blue As You Feel
2. Slipped Out
3. Stella by Starlight
録音:及川公生@太平スタジオ 1973年1月17日(Disc1-1)/東京スタジオセンター 1973年2月1日
同時にリリースされた『山下洋輔トリオ』と同じく、CUE社の約40年前のテープを音源とする初CD化2枚組。但し、このアルバムについては録音に至るストーリーを紹介しておく必要がある。CUE社からテープ用の録音企画の依頼を受けたエンジニアの及川公生氏(当誌の録音担当コントリビュータとしてお馴染み)が、日野皓正に白羽の矢を立てた、というより、ある音楽誌に掲載された日野の米国帰国談に若き及川が発奮、日野皓正に挑戦状を叩き付けて実現した企画。日野曰く「アメリカの録音技師は実にすばらしい。音楽をよく理解しているし、我々が何をやろうとしているのかをよく分かっていて、音もちゃあんと録っているんだ...。彼らはすでにミュージシャンでもあるわけ」。
タイミングも2つの意味でベストだった。まず、日野の専属契約が切れ、フリーの状態にいたこと。さらに、日野がキャリアの中でベストと目される『ベルリン・ジャズ・フェスティバルの日野皓正』から日本ジャズ賞に輝く『藤』(共にビクター)を経て、音楽的に当時のピークにいたこと。及川も潔(いさぎよ)かった。ポスト・プロダクションの効かない、2トラック/2チャンネル・ステレオ録音。破竹の勢いの日野を迎え、退路を断つ“一発録音”という、まさに武蔵と小次郎による巌流島の決闘を彷彿させる設定で臨んだのである。
<プレ・ドーン>(夜明け前)。日野バンドの新しいステップへの突入を告げる今村裕司の予兆的なパーカッションによるイントロに続いて日野が高らかにファンファーレを吹き上げる。まさに進軍ラッパだ。これは、『藤』でひとつの頂点を極めた日野が、おそらくはベルリン・ジャズ・フェスへの参加からNY滞在を経て新しいジャズの息吹に触れ新たな頂への登頂を決意、ファンに披露するファンファーレに違いない。ギター(杉本喜代志)に代えパーカッション(今村)とピアノ(益田幹夫)を加えリズムを強化、とくにアフリカ志向を明確に打ち出し、益田のモーダルなピアノで呪術性をも獲得。テナー(植松孝夫)が抜け、日野のトランペットが裸になった。その新たなコンセプトが早くも<ミスター・ハッピネス>で具現化される。Disc2の1、2は10分を超す長尺もの。1はバラード、2はアフリカンとアップテンポの4ビートがミックスしたユニークなアレンジ、3の<ステラ>は4ビートで奏される。どのトラックでも日野の自信に満ちたトランペットがシーンを圧倒するが、俊英の益田が先輩連に堂々と伍し将来を期待させる演奏を披露している。総じて「好評を博した前記諸作と優劣のつけがたい快演を収録したもの」(悠雅彦/ライナーノート)に違いない。
録音コンセプトの詳細に付いては及川氏自身の解説に譲るが、オーディオファイル向けの録音でもあり、各楽器が明確に分離され、トランペットと共にベースがセンターに位置しヴォリュームを得て存在感を示している。ピアノを左に、ドラムスを右に分離する手法は氏の後年の録音にはみられないものである。特筆すべきは、主役のトランペットの音色で、金管の持つ輝かしさと鋭さに加え、吹き込まれた奏者の呼気の暖かみまで感じ取れることである。かくして日野の傑出した技量と深い音楽性を余すところなく伝えることに成功しており、オーディオファイル向けに制作された音源が、音楽ファン向けにCD化される作業に十二分な意義を持たせている。(稲岡邦弥)追)悠雅彦氏の曲解説でDisc:1の1、2が逆になっているが、これは編集ミスと思われるので要注意。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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