# 954
『山下洋輔トリオ』
text by 稲岡邦弥
1974年8月、山下洋輔“ゴールデン・トリオ”のスタジオ録音。オーディオ・マニア向けに「ツートラ・サンパチ」(2 track=38cm/sec)のテープでリリースされた録音が、約40年ぶりで初めてCD化された。山下洋輔=坂田明=森山威男の“ゴールデン・トリオ”の活動期間は3年弱。CDアルバムは4作しか公表されていなかったので、このテープのCD化は内容の素晴らしさと相まって内外で大きな話題となるだろう。72年に坂田が参加してスタートしたこのトリオの最初の録音は、73年7月に副島輝人氏のプロデュースで2週間にわたって開催された「インスピレーション&パワー14〜フリージャズ大祭」を完全収録した旧トリオレコードが4chの原盤を所有していたのだが、旧トリオレコードの音源を買い取ったインディにより廃棄処分されるという信じ難い暴挙に会う。この大祭に参加したグループから各1曲ずつを収録した2枚組オムニバスにこのゴールデン・トリオの1曲<クレイ>が収録されているのがわずかの救いだが、担当プロデューサーとしては日本のフリージャズ最盛期を切り取った歴史的ドキュメントを廃棄された無念さは到底晴らされるものではない。それだけにこのCUE社のテープの発掘とCD化に快哉を叫ぶのである。
このトリオとは翌74年6月ノースシー・ジャズ・フェス(オランダ・デンハーグ)で再会する。先行地での衝撃的な演奏が伝わり会場は立錐の余地のない入り。入場してきたトリオの<ズーボ>(坊主)の額にたしかに日の丸を幻視した。「肉体のさまざまな運動を内的衝動によって活性化させ、音として放出させていくというやりかた」(悠 雅彦氏のライナーノート)で完全に聴衆をノックアウト、彼らを「カミカゼ!」と賞賛させつつ茫然自失せしめた。
このアルバムはスタジオ録音だけに彼らのすべてが凝縮されている。但し、スタジオ録音と侮ってはいけない。演奏は沸点をゆうに超えて火傷をするほど熱い。1と2は山下、3は坂田のオリジナル。2の<ミナのセカンドテーマ>は映画『荒野のダッチワイフ』(大和屋竺監/1967)のための作品で、一転、レイジーな坂田のクラリネットが映画のシーンを彷彿させる。
オーディオファイル用の録音でもあり、エンジニアの郷谷弘(さとや・ひろし)がこの難しい音源を熟慮の上、見事にさばいている。コンセプトの詳細は氏の解説に尽くされているが、音楽のミクロとマクロが的確に両立しており、アナログ・マスターのデジタル・マスタリングも秀逸。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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