# 956(アーカイヴ)
『Gerry Mulligan The Concert Jazz Band At Newport 1960』
text by 望月由美
Solar Records 4569890 | ![]() |
Don Ferrara(tp)
Phil Sunkel(tp)
Conte Candoli (tp)
Bob Brookmeyer (vtb)
Wayne Andre (tb)
Alan Raph (b-tb)
Gene Quill (as, cl)
Dick Meldonian (as)
Jim Reider (ts)
Gene Allen (bars, b-cl)
Gerry Mulligan (bars,p)
Buddy Clark (b)
Mel Lewis (dm)
1. Utter Chaos
2. Broadway
3. Theme From 'I Want To Live
4. Out Of This World
5. Manoir De Mes Reves
6. 18 Carrots For Rabbit
7. Walkin' Shoes
8. Sweet And Slow
9. I’m Gonna Go Fishin’
10. Blueport
11. Utter Chaos/Closing
12. Theme From I Want To Live(Bonus Track)
13. The Ant Hill(Bonus Track)
収録:Newport Jazz Festival, Freebody Park, Newport, Rhode Island, July 1, 1960
最近よく見かけるニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの発掘音源のひとつである。
3トランペット、3トロンボーン、5サックスにベース、ドラムスという13人編成であるが、ニューポートでのライヴということもあって、重厚さと軽快さをあわせもっているコンサート・ジャズ・バンドの特徴がよく発揮されている。
例によってニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの名物司会者として名高いウイリス・コノヴァー神父のアナウンスで始まるので映画「真夏の夜のジャズ」が思わず目に浮かぶ。オープニングは(1)<アター・ケイオス>、マリガンのクロージング・テーマとして有名な曲だがここでは始めと終わりに演奏されている。マリガンの軽やかなバリトンが颯爽と現われる、颯爽という言葉がマリガンには一番似合っている。一緒に演奏しているメンバー達もさぞ気持ちよいのだろうなと羨ましくなるような小気味のよいバリトンである。マリガンはバリトン・サックスの世界にサージ・チャロフやハリー・カーネイに代表されるような豪放なイメージとは違って爽やかでクールなイメージを醸し出して人気を博したがここでもそのテイストは健在である。
マリガンのほかコンテ・カンドリ(tp)やジーン・クイル(as)、ジム・ライダー(ts)などの名手に加えて50年代はじめのウエスト・コースト時代からの盟友ボブ・ブルックマイヤー(btb)やドン・フェララ(tp)も加わっていて気心の知れたメンバーで和気あいあい、うち解けた雰囲気がとても楽しい。しかしひとたびソロとなるとみんな真剣勝負、スムーズでメロディアスなフレーズを連発するあたり真のプロフェッショナルな集団である。そしてコンサート・ジャズ・バンドが他の大編成グループと大きく違うところはメンバーのソロの合いの手としてマリガン独特のリフがふんだんにちりばめられている点である。このリフにはオリジナル・カルテットやセクステット時代から培ってきたマリガンのエスプリがびっしりと詰まっている。ソロとリフとのバランスが実に巧妙で、コンボ的要素も巧く活かされていて13人という編成を忘れるくらいにソロ回しがスマート。このコンボ的な手法はのちのサド&メル・オーケストラに引き継がれているのだと思う。因みにコンサート・ジャズ・バンドのドラムスは後にサド&メル・オーケストラを立ち上げたメル・ルイスである。
マリガンは1958年、映画「私は死にたくない」への出演を機に映画出演に積極的に取り組み59年には「地下街の住人」「ねずみの競争」と映画への出演が多くなり、ハリウッドに滞在する時間が多くなってしまう。そのため、そのあいだ仕事がなくなった当時のマリガン・カルテットのメンバー、アート・ファーマー(tp)はベニー・ゴルソン達とジャズテットを結成し、なりゆきとしてカルテットは自然消滅してしまう。
そして、ハリウッドからニューヨークに戻ったマリガンは1960年はじめにコンサート・ジャズ・バンドを結成することになる。マリガンは自分の音楽はお酒の場でのつまみやダンスの伴奏なんかじゃなくきちっと聴いてもらいたい、という気持ちをこめてバンド名の冠に「コンサート」をつけたのだそうだ。コンサート・ジャズ・バンドは凡そ3年程の間、ノーマン・グランツの支援もあって米国内ツアー、ヨーロッパ・ツアーなど精力的な活動を続けるが、本アルバムは1960年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのコンサート・ジャズ・バンドのステージを収録したもので、結成間もないバンドの勢いがあってマリガン・ファンにはとても興味深い。
マリガンはスタートがジーン・クルーパ・オーケストラやスタン・ケントンのアレンジからであり、例のマイルス「クールの誕生」にも参加しているし、1953年にはキャピトルに『ジェリー・マリガン・テンテット』を録音するなどオーケストラのアレンジはもともと得意だし好きだったのだ。
マリガンは3年ほどでこのコンサート・ジャズ・バンドを解散するが70年代の後半には「ジェリー・マリガン・アンド・ヒズ・オーケストラ」を結成するなどビッグ・バンドへの気持ちはずっと持ち続けていた。本作はビッグ・バンドが心底好きだったマリガンの情熱と腕利きのソロイストたちのニューポートならではのリラックスしたハピーなパフォーマンスが理屈抜きで心底楽しく、マリガン・ファンにはたまらない魅力になっている。
尚、(12)、(13)はボーナス・トラックで、(12)はベルリンでのコンサート・ジャズ・バンドの演奏でズート・シムズ(ts)入り、(13)はアルバム『ナイト・ライツ』(Philips)と同じメンバーによる1963年のニューポートでの演奏である。(2012年11月 望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
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