#  961

『モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番&第20番/マリア・ジョアン・ピリス』
text by 大木正純


ドイツ・グラモフォン/ユニバーサル・ミュージック・クラシック
UCCG-1593 (SHM-CD)
2800円(税込)

演奏者:マリア・ジョアン・ピリス(pf)クラウディオ・アバド(cond)モーツァルト管弦楽団
曲目:モーツァルト ピアノ協奏曲第27番&第20番
録音場所:ボローニャ&ボルツァーノ
録音日時:2011年9月
プロデューサー:マッティーアス・シュピントラー
エンジニア:シュテファン・フロック

 いまや社会の老齢化こそが、人類の抱える最大の難問だと思わずにはいられぬ今日この頃だが、音楽の世界に限って言うなら、演奏家たちの現役生活はむろん全盛期が延びれば延びるほど良いに決まっている。長い年月の歩みの末に孤高の境地を手中にした大家たちが、なお矍鑠と第一線で活躍するのを目の当たりにするのは、何物にも代え難い楽しみのひとつである。
 この秋、日本のステージには、そんなクラシック界の“長老”たちが、次から次へと登場した。私が聴くことができたコンサートだけに限ってみても、指揮のスクロヴァチェフスキ88歳(読売日本交響楽団)とピアノのチッコリーニ87歳の両横綱以下、オーボエおよび作曲のホリガー73歳、ピアノのポリーニ70歳、同じくルプー67歳、ヴァイオリンのクレーメル65歳という具合。何ともはや、錚々たるラインナップではないか。しかもこれらの人びとが、ことごとく、矍鑠と言う以上の見事なステージを繰り広げてくれたのだから驚くほかはない。
 ここに紹介するピアノ協奏曲集でも、大ヴェテランの二人、年齢を合計すればそろそろ150歳も遠くないピアノのピリスと指揮のアバドが、こよなく美しいモーツァルトの世界を楽しませてくれる。アバドは病に倒れて一時は再起が危ぶまれた時期もあったし、ピリスも最近の来日公演では若干陰りがみえたケースもなくはなかったのだが、どうしてどうして、このディスクではともに、まだまだこれからと言わんばかり。そう簡単には老け込まない。
 中でもモーツァルト最晩年の作、ピアノ協奏曲第27番変ロ長調の演奏は、すべての夾雑物を洗い流したような、ピュアな美しさが際立つ絶品だ。肩の力を抜いて、慈しむように奏でるピリスのピアノの、そっと胸に染み入る心優しい響き。オーケストラもすばらしい。アバド率いるモーツァルト管弦楽団は、つい最近、今年リリースされたディスクの最高峰と思われるベルクのヴァイオリン協奏曲ほか(ソロはイザベル・ファウスト)でも文句なしのサポートを聴かせてくれたばかりだが、今回はそれをも凌ぐ好調ぶり。こんなにもチャーミングなモーツァルトの協奏曲の管弦楽パートも珍しい。
 もう1曲、あのインパクトの強烈な協奏曲第20番ニ短調も、ここではデモーニッシュな方向に突き進む硬派の演奏ではなく、純音楽的な美感を追求する方向に狙いを定めている。その当然の流れとして、第2楽章ロマンツェの文字通り天国的な音調こそが、全曲の核心部分をなすことになる。ピリスもアバドも、オーケストラの面々も、その美しさに痺れている。(大木正純)

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