#  963

『sabu toyozumi kosai yujyo』
text by 望月由美


Improvising Beings(仏)ib14 / INaudible CD 008/009
2 × CD(Limited Edition)

CD1:
1. Kris' Wish
  Sabu Toyozumi (ErHu)
  Luo Chao-Yun (Pipa)
  Pascal Marzan (g)   John Russell (g)

  Isabelle Sainte-Rose (Cello)
  Jean Demey (Double Bass)
  Joel Grip (Double Bass)
  Kris Vanderstraeten (Per)
2. The Last Feather
  Sabu Toyozumi (ErHu)
  Jean-Michel Van Schouwburg (Voice )
3. Strongsth 1
  Sabu Toyozumi (ds,per,ErHu)
  Dan Warburton (Violin)
  Pascal Marzan (g)
4. Strongsth 2
  Sabu Toyozumi (ds,per,ErHu)
  Dan Warburton (Violin、p)
  Pascal Marzan (g)
5. Unknown Sketch
  Sabu Toyozumi (ds)
  Jean-Michel Van Schouwburg (Voice)
  Audrey Lauro (as)
  Marjolaine Charbin (p)
CD2:
1. Above Nino
  Sabu Toyozumi (ds)
  Jean-Jacques Duerinckx (Sopranino)
  Jacques Foschia (b-cl)
  Jean Demey (Double Bass )
2. Raw Drink
  Sabu Toyozumi (ds)
  Jacques Foschia (b-cl)
  Joel Grip (Double Bass)
3. Sand's Witch
  Sabu Toyozumi (ds)
  Audrey Lauro (as)
  Pascal Marzan (g)
  Guy Strale (per)
4. The Gottingen Cadenza
  Sabu Toyozumi (ErHu)
  Ove Volquartz (ss,b-cl,Contrabass Clarinet,fl)
  Peer Schlechta (pipe Organ)

Producer [For Improvising Beings] Aurelie Gerlach, Julien Palomo
Producer [For Inaudible] Jean-Michel van Schouwburg

CD1:tracks 1and2,CD2 tracks 1,2 and 3 Recorded by Michael W. Huon at Ateliers Mommen,Brussels,October 7 and 8、2011
CD1:tracks 3 and 4 Recorded By Pascal Marzan and Dan Warburton at Bab’ llo,Paris,September 3,2010
CD1:tracks 5 Recorded by Michael W. Huon at at L’ Archiduc、Brussels,September 5,2010
CD2:tracks 4 Recorded by Ove Volquartz at Neusatdter Kirche in Hofgeismar,October,12,2011

 久々の“SABU”豊住芳三郎の新作。このところ、海外での活動を精力的に続けているSABUの2010年9月から2011年10月までのヨーロッパでの演奏を2枚組みのCDにまとめてフランスのインプロヴァイジング・ビーイングスがリリースしたものでSABUの近況を知るうえで貴重なアルバムである。
 CD1にKosai(交際)、CD2にYujyo(友情)というタイトルがつけられているが、このタイトルはSABUが名付けたものではなく、プロデューサーのひとりJean-Michel van Schouwburg(vo)略称ジャン・ミッシェルが付けたものだそうで、SABUにとっては少し照れくさいタイトルとなったようであるが内容は充実、CD1,2ともに78分をこす長尺である。
 アルバムには2010年9月のブラッセルとパリ、2011年10月のブラッセルとホーフガイスマルでの演奏が収録されているがSABUらしく、すべて決めなしの完全即興、ライヴの一発録りである。編成もデュオから8人編成まで変化に富んでいて居ながらにしてSABUの多様なライヴ・ステージが追体験できる。日本ではあまり馴染みのないミュージシャンが数多く名を連ねているがみんな熱心にフリーを追求しているひと達で、ブリュッセルのセッションにはロンドンのジョン・ラッセル(g)、台湾のルオ・チャオ・ユン(Pipa)などSABUの長年の友人も駆けつけて演奏に加わっている。
 とりわけ、昨2011年10月のドイツ、ホーフガイスマルの教会でのCD2-4<The Gottingen Cadenza >が素晴らしい。Ove Volquartz (ss,b-cl,Contrabass Clarinet,fl)とPeer Schlechta (pipe Organ)とのトリオによる演奏でSABUはここでは二胡を演奏している。44分52秒という長尺であるが3人の鋭敏な反応と程よい緊張感が保たれていて、あっという間に聴き終える。Peer Schlechtaのパイプオルガンが悠然と床を這うように漂い、演奏の骨格を組み立てる。そしてその上でOveとSABUが対話をはじめる。Oveの音には黒いブルースの香りはないものの無機質なフリーには陥らないで、巧みなテクニックを駆使して宙を舞うかのようにソフトにSABUに語りかける。バスクラとフルートが美しい。
 Oveは学校の先生をしながらマルチ・リード奏者として活躍していて、セシル・テイラーのワークショップやギュンター・ハンペルのオーケストラに参加するなどドイツのジャズ・シーンの牽引者のひとりである。OveとPeerの二人は元々よき演奏仲間のようで息もあっている。この二人の間をSABUの二胡が自由に行き交い二人を刺激し鼓舞する。二胡の弦のきしむ音が教会の残響とうまくブレンドして幻想的な世界を描き出す。教会という自然のリバーブを得てSABUの二胡の魅力がより効果的に表現されている。教会とフリー・ミュージックがものの見事にマッチングして思わず三人の世界に引き込まれる。昔、芝の増上寺でFMT(藤川、翠川、豊住)を演じたSABUが今回は教会で飛翔した。お寺といい教会といい俗世界を超越したところでSABUの存在感は一段と際立つのである。
 この教会での演奏が本アルバム誕生のきっかけになったのだそうだ。この演奏を記録したCDRをパリのインプロヴァイジング・ビーイングスのプロデューサー Julien Palomo(ジュリアン)に送ったところジュリアンがSABUの二胡に興味を示しCDリリースの話に発展した。これまでSABUとなんどか共演をしていたジャン・ミッシェル(vo)がそれまでに録りためていた音源やパリでの共演者パスカル(g)が録音してくれていた音源を加えて2枚組みCDにまとめ上げたのだという。ジャン・ミッシェルはブラッセルでのセッションの2曲にヴォイスで参加しているミュージシャンでもある。
 インプロヴァイジング・ビーイングスのプロデューサー、ジュリアンは奥さんがかつて日本に留学していたということもあって大変な親日家だそうで、沖至(tp)と仲がよく、これまでに沖至やアラン・シルヴァ(b)、ソニー・シモンズ(as)、フランソワ・テュスク(p)などのフリー系のアルバムをリリースしている。2009年の横浜・エアジンで録音されたアラン・シルヴァのアルバム『Crimson Lip』(Improvising Beings)にはSABUも参加している。
 『Sabu Toyozumi Kosai Yujyo』(Improvising Beings ib14)からは生涯現役、ますます元気なSABUと彼の友人たちとのオープン・マインドな音の交流の一端を知ることができる。
この12月1日に台湾から帰国したSABUに近況を伺った。台湾に滞在中SABUはヴァイオリンを買ってきたという。好奇心旺盛なSABUにまたひとつ楽器がふえた。この12月にフレッド・ヴァン・ホーフ(p)とのデュオがプログラムされているが、SABUはフレッドの公演でもヴァイオリンをやっちゃおうかな、と屈託なく笑ってる。根っからの自由人SABUは来年70歳になるが、いつも底抜けに明るい。(2012年12月 望月由美)

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