#  964

『本多俊之BW4 with 和田アキラ/コンドルは飛んで行く』
text by 望月由美


ピットイン・ミュージック
PILJ-0006

本多俊之(ss & Arrange)
野力奏一(p, key & Arrange)
川村 竜(b)
奥平真吾(ds)
和田アキラ(g)

1.スパニッシュ・ティアーズ(本多俊之)
2.ドリーム・カム・トゥルー(本多俊之)
3.イースタン・レガシー(本多俊之)
4.ラビング・ユー・スローリー(本多俊之)
5.コンドルは飛んで行く(ダニエル・アロミア・ロブレス/編曲 本多俊之)
6.スカボロー・フェア(トラディショナル/編曲 野力奏一)
7.キャップテン・セニョール・マウス(チック・コリア)
8.キッチン(野力奏一)

プロデューサー:本多俊之、共同プロデューサー:品川之朗
エンジニア:菊地昭紀(ピットインミュージック)
録音:2012年8月29日, 新宿ピットインにてライヴ録音

 本多俊之に火を噴くようなハード・ブローイングはそぐわない、しなやかなで温かい音色、滑らかでスムーズなフレージングこそが本多俊之の魅力である。本作にはそんな本多俊之の世界がクローズアップされている。
 映画「マルサの女」で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞して以来、映画音楽やTVドラマ、CFなどの分野での活動が忙しくなっていた本多俊之であるが、節目、節目では新宿ピットインに出演するなどジャズ・シーンとの接点は保っていた。そして近年は様々な形でステージでの演奏にも積極的に取り組んでいたが、今回新生「バーニングウェイブ・カルテット」を立ち上げてユニットとしての本格的な活動を開始し古巣、新宿ピットインでライヴ録音を行ったもの。
 本多俊之が「バーニングウェイヴ」を立ちあげたのは1978年、ちょうど「ネイティブ・サン」がフュージョン旋風を巻き起こしていた頃である。本多俊之はバーニングウェイヴ発足時の原点をしっかりと守っている。そしてその上でさらに円熟味を加えたメロウで寛いだサウンドをここで創り上げている。
 そもそも、本多俊之は自己のブログで1972年、中学3年の時チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(ECM)のジョー・ファレルに衝撃を受けてソプラノを始めたと語っている。ジョー・ファレルはRTFで爽やかなイメージをアピールしたり、CTIでフュージョン・アルバムを発表する一方でエルヴィン・ジョーンズ(ds)のグループでハードなブローも演じるという硬軟自在のリード奏者である。ジョー・ファレルを信奉する本多俊之らしい艶のある滑らかなソプラノがバンドをリードしている。
 また、新生バーニングウェイヴのリズムが面白い。どっしりと腰のすわった川村竜のベースと奥平真吾の歯切れのよいシンバル・ワークが安定したスイング感をつくり出す中を本多俊之と野力奏一が豊潤なメロディーを紡ぎだしてゆくあたりに、マスター・ミュージシャンによる趣味のよいサウンドがピットインの空間を隅々まで満たしてゆく様子が伝わってくる。
 ドラムの奥平真吾はバーニングウェイヴ発足当時からの本多の楽友で、奥平真吾の帰国第一弾『ザ・フォース/奥平真吾』(PIT INN MUSIC)でも二人は共演している。奥平真吾のフットワークはいつも軽やかでセンシティヴ、メンバーにフレッシュな刺激を与え続けている。
 ベースの川村竜も全編アコースティック・ベースで強靭なリズムをくりだす。川村竜はケイ赤城(p)や峰厚介(ts)、石井彰(p)など個性豊かなミュージシャン達と共演しているが常に自らの立ち位置は変えないでうまくマッチングしてゆくタイプである。ここでもバーニングウェイヴの音楽に同化している。
 そして、キーボードの野力奏一のバッキングもクリアで清々しさをバンドにもたらしている。(2)<ドリーム・カム・トゥルー>で川村竜の力強いベース・ソロのあと本多俊之と野力奏一の二人が奥平真吾と延々バースを展開するが、ここでの奥平真吾のバスドラの連打はヴィレッジ・ヴァンガードのGJT、トニー・ウイリアムスの興奮を呼び起こす。
 (3)<イースタン・レガシー>からギターの和田アキラが加わり、一挙にデビュー当時のバーニングウェイヴにタイムスリップしたようなファッショナブルなフュージョンが展開される。
 新宿ピットインの20周年を記念して刊行された『新宿ピットイン』(1985年、晶文社)のなかで本多俊之は<僕にとってのピットインね。とにかく、すごくいい場だね。お客さんも好きだし。どこが好きかっていうと、騒ぎすぎないで、ちゃんと音楽聴いてくれて、反応してくれるから>と語っている。
 『本多俊之BW4with和田アキラ/コンドルは飛んで行く』(PILJ-0006)からは高校時代にピットインのティールームからスタートし、ピットインを青春の場所としてきた本多俊之のピットインへの思い、こだわり、そして新生BW4の意気込みが伝わってくる。
 フリーからメインストリーム、フュージョンまで常に日本のジャズ・シーンの最先端を牽引してきた『新宿ピットイン』の歴史の重み、懐の広さを改めて感じる(2012年12月 望月由美)

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