#  967

『Chico Freeman/ELVIN』
text by 望月由美


Jive Music
JM-2069-2

Chico Freeman (ts)
George Cables (p)
Lonnie Plaxico (b)
Winard Harper (d)
Joe Lovano (ts on track 1,7)
Martin Fuss (ts,bs,fl on track 4)

1. Elvin (Chico Freeman) feat. Joe Lovano
2. Inner Urge (Joe Henderson)
3. E.J.'s Blues (Elvin Jones)
4. The Pied Piper (C.Freeman/M.Thompson)
5. After the Rain (Jhon Coltrane)
6. Night Dreamer (Wayne Shorter)
7. Think On Me (George Cables)feat. Joe Lovano
8. Lonnie's Lament (Jhon Coltrane)
9. Mahjong (Wayne Shorter)
Added video tracks:
10.Chico Freeman on Elvin Jones
11.The Elvin Jones Project On Elvin Jones

Executive Producers: Radio.Video.Jazz,Chico Freeman,Rens Newland(Jive Music Austria)
Recorded Sept.7,8,9, 2011 By Michel Brorby at Acoustic Recording,NYC

 

チコ・フリーマンが立ち上げた「The Elvin Jones Project」の成果

チコ・フリーマンの新作のタイトルはズバリ『ELVIN』(Jive Music)、副題を「The Elvin Jones Project」とあり、ドラマー、エルヴィン・ジョーンズへのトリビュート作となっている。アルバムにはメンバーのオリジナル曲のほか、ジョー・ヘンダーソン(ts)やジョン・コルトレーン(sax)、ウェイン・ショーター(sax)などのエルヴィン・ジョーンズが共演して名演を残した曲をセレクトしている。
ジョージ・ケイブルス(p)、ロニー・プラキシコ(b)とウィナード・ハーパー(ds)にチコ・フリーマンというワン・ホーン・カルテットにジョー・ロヴァーノ(ts)、マーティン・ファス(reeds)が曲によってゲスト参加したもの。チコ・フリーマンはテナー一本で通している。
(1)<Elvin>はチコ・フリーマンのオリジナル。タイトルどおりエルヴィンに捧げたものでエルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーン(E.J.J.M.)にならってジョー・ロヴァーノ(ts)とのテナーの2管でエルヴィンのイメージを浮かび上がらせている。二人のテナーも快調だが、スネアの爆ぜ方などウィナード・ハーパー(ds)がエルヴィンのタイム感覚を巧みに再現、E.J.J.M. がよみがえる。
ジョー・ロヴァーノ(ts)はこの曲と(7)<Think On Me>の2曲にゲスト参加しているが流石トップ・テナーとしての貫禄を示している。
チコ・フリーマンはエルヴィンのE.J.J.M.に加わってヨーロッパ・ツアーを経験しているし、自己のリーダー・アルバにもエルヴィンに加わってもらっていたこともあり、最近「The Elvin Jones Project」を立ち上げて活動を始め、本作の実現に至った。エルヴィン・ジョーンズを偲ぶプロジェクトとしてはかつて本田珠也(ds)が「Elvin Jones Tribute Band」で活動したこともあったし、エルヴィンはドラム奏者だけでなくジャズ・シーンにとって大きな存在なのである。
(2)<Inner Urge>はご存知ジョー・ヘンダーソン(ts)がエルヴィン、マッコイとともにブルーノートに残した名盤のタイトル曲。ここでのチコ・フリーマンはジョー・ヘンダーソンを意識してかメイン・ストリーマーとしての存在感をアピールしている。冒頭に1分40秒ほどチコ・フリーマンとウィナード・ハーパーの掛け合いがコルトレーンとエルヴィンのデュオをイメージさせる。
(3)<E.J.'s Blues>はいうまでもなくエルヴィンの代表作。辛島文雄(p)がE.J.J.Mに参加していた時の新宿ピットインでのライヴ・アルバム『Live At Pitinn』(Polidor)で演奏しているし、辛島文雄は森山威男(ds)との『辛島文雄ミーツ森山威男/E.J.Blues』(Pit Inn Music)でもこの曲を再演している。ここではジョージ・ケイブルス(p)がドライブのかかった思い切りの良いソロを聴かせてくれる。ジョージ・ケイブルス(p)もアート・ペッパー・カルテットのころにコンテンポラリーでのレコーディングやヴィレッジ・ヴァンガード・セッションなどでエルヴィンと共演している間柄である。(4)<The Pied Piper>ではマーティン・ファス(reeds)が加わり、チコのテナーにバリトン、テナー、フルートを重ねて分厚いサウンドを醸し出す。
本アルバムでチコ・フリーマンはジョン・コルトレーンの曲を2曲とりあげているが、(5)<After the Rain>は『Impressions』(impulse!) でドルフィーとの激しいバトルのあとに静かなやすらぎをあたえてくれた曲、そして、(8)<Lonnie's Lament>は『Crescent』(impulse!)からの選曲である。ポスト・コルトレーンと云われる人は沢山いるがそういう人達によってこの2曲が演奏される機会はあまり多くはない。あまりにもコルトレーンの演奏が凄かったからかもしれない。あえてこの2曲を選んだことでもコルトレーンを敬愛するチコ・フリーマンの気持ちが伝わってくる。チコ・フリーマンはなんの飾りもつけずにストレートにテーマを吹いていて潔い。
また、ウェイン・ショーター(ts)の曲も2曲、(6)<Night Dreamer>『Night Dreamer』(Blue Note)と(9)<Mahjong>『JUJU』(Blue Note)。いずれもエルヴィンがドラムを叩いている曲である。チコ・フリーマンのロング・ソロ、ジョージ・ケイブルスの流麗なタッチそしてウィナード・ハーパーのポリリズムがとてもいい。
アルバムの(10)と(11)はおまけの動画である。<Lonnie's Lament>のレコーディング風景とチコ・フリーマンやジョージ・ケイブルス、ロニー・プラキシコ、ウィナード・ハーパーがそれぞれエルヴィンに対する想いを語っている。リスナーにやさしい作りである。
チコ・フリーマンはこれまでに何度か日本を訪れているが、なかでもいちばん記憶に残っているのは父ボン・フリーマンと親子でヤマハのステージに立った時のチコ・フリーマンである。
アルバム『ELVIN』からは父ボンの懐のもとでのびのびと吹いていた素直なチコ・フリーマンの姿が伝わってくる。(2013年1月 望月由美 Yumi Mochizuki)

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