# 970
『South Florida Jazz Orchestra/Trumpet Summit』
text by 関口登人
Mama Records | ![]() |
Trumpets: Wayne Bergeron (track 4-8), Augie Haas (track 1-3,9)
Featured Soloists (trumpet): Brian Lynch, Greg Gisbert, Jason Carder, Alex Norris, Cisco Dimas, Kim Pensyl
Saxophones: Gary Keller, Gary Lindsay, Ed Calle, Ed Maina, Ken Mattis, Mike Brignola
Trombones: Dana Teboe, Dante Luciani, John Kricker, Joanna Sabater, Jennifer Wharton
Rhythm: Brian Murphy (p), Martin Beherano (p), Chuck Bergeron (b), John Yarling (ds)
1. Daahoud (Clifford Brown /arr. Chuck Bergeron)
2. Read My Lips (Chuck Bergeron)
3. Everything I've Got Belongs to You (Rodgers and Hart /arr. Chuck Bergeron)
4. Blues for the Terrible Two's (Chuck Bergeron)
5. Peer Pressure (Brian Lynch)
6. Sophisticated Lady (Duke Ellington /arr. Gary Lindsay)
7. One for Mogie (Brian Lynch)
8. All the Things You Are (Jerome Kern /arr. Gary Lindsay)
9. Good Addiction (Alex Norris)
Recording produced by John Fedchock
夏に聴いたら汗だくかも...
かつて新しいタイプの刑事ドラマとして評判の高かった「マイアミバイス」を覚えておいでだろうか。麻薬潜入捜査官が複雑な人間関係を綾に翻弄されながら展開される異様に熱いストーリーを、小気味よく突き抜けたような早いテンポと、これまた熱い音楽で彩った刺激的なシリーズだった。大半の事件が麻薬絡みなので、ハリケーンの心配はあるものの避暑地として、あるいは比較的恵まれた年金生活者の終の居住地として過ごしやすい場所というイメージしかなかったマイアミだけに僕にはちょっとしたショックだった。あとで分かったことだが、犯罪発生率は全米のトップ5に入るほどの危険な土地だったらしい。もちろんマイアミ全体が犯罪にまみれているわけではなく、デイド地区が主な温床だったようだが、近年では行政(警察)の努力によってトップ25から抜け出したようだ。
一方、国際観光都市として国内外を問わず観光客は多く、マイアミ空港は全米で第3位の利用客数を誇っていて街としての成熟度はかなり高い。したがって、スポーツや音楽の分野でも逸材を多く輩出している。
前置きが長くなったが、ことジャズに関しても今回取り上げるアルバム 『トランペット・ サミット』 はマイアミに深く関わるミュージシャン達によるビッグバンド・ジャズの力作である。マイアミ大学で教鞭をとる4名を含む8人のトランペッターと地元で活動しているミュージシャンとが繰り広げる演奏は熱気、力量とも申し分ない仕上がりになっていて全9曲をあっという間に聴き終えていた。ブライアン・リンチ、ウェイン・バージェロン(ぐらいしか僕は知らないが)、グレッグ・ギズバート、ジェイソン・カーダー、アレックス・ノリス、オージー・ハース、フランシスコ・ディマス、キム・ペンシルの8人が曲によってチェンジしながら、全体ではおおよそ16名から18名(パーカッションが参加する曲)のオーソドックスなフルバン・フォーマットで演奏している。ソロ・オーダーはライナーノートに記載されているが、すべてのトランペッターを聞き分けるのは難しい。僕には辛うじて音色とソロの構成などからブライアン・リンチと強烈なハイノートヒッターのウェイン・バージェロンがわかる程度だ。ある意味では世のトランペット・フリーク、もしくはコレクターにとって財布が痛む話につながりそうなアルバムだ。曲はクリフォード・ブラウンの(1)でご機嫌なスタート。(3)、(6)、(8)がスタンダードで、(2)、(4)がW.バージェロン、(5)、(7)がB.リンチ、(9)がアレックス・ノリスのオリジナルで構成されている。アレンジはベースで参加しているチャック・バージェロンと同じくアルトサックスのゲイリー・リンゼイが窮屈にならない空間にブラスの魅力と熱気を引き出すことに成功している。
しかし、最近、ヤマハで「ウェイン・バージェロン」モデルが発売されるほどの売れっ子が1曲だけしか参加していないというのはちょっと寂しい。またコンボとは異なり、教鞭をとるようなミュージシャンが参加しているフルバンだからなのか、あるいは整然とした熱気を意図しているのか、スポンテイニアスな魅力が今ひとつと思わせる曲も散見した。
サイドメンではテナーのエド・カーレ、アルトのゲイリー・ケラー、バリトンのマイク・ビニョーラ(彼らは一昨年のジャコ・パストリアス・トリビュート・バンドに加わり来日している)、ベースのチャック・バージェロン、ピアノのブライアン・マーフィーの面々がソロとアンサンブルで彩りを添え、厚みを加えることに貢献している。
すぐ近くにキューバ、西インド諸島を控え、マイアミで暮らす多くのヒスパニック系の人々の存在など、この地の音楽がジャズに限らず熱くならない理由はないはずだ。本アルバムもこのシチュエーションの中から生まれている音楽だけあって、精緻でありながら熱い現在のマイアミ・ジャズを十分に堪能させてくれた。
(関口登人 Nobuto Sekiguchi/COJAC同人)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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