# 971
『Samuel Blaser Quartet/As The Sea』
text by 伏谷佳代
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Samuel Blaser (サミュエル・ブレーザー;tb)
Marc Ducret (マーク・デユクレ;g)
Baenz Oester (ベンツ・ウェースター;b)
Gerald Cleaver (ジェラルド・クリーヴァー;ds)
1,As The Sea, Part1,(19:16)
2,As The Sea, Part2,(10:58)
3,As The Sea, Part3,(11:11)
4,As The Sea, Part4,(09:45)
All compositions by Samuel Blaser
録音:2011年11月5/6日@Hnita Jazz Club, Heist op den Berg, Belgium
ミキシング:2012年1月31日 in Paris
エンジニア:Jean Marc Foussat(ジャン・マルク・フーサ)
CDマスター:Peter Pfistert(ペーター・フィステルト)
プロデューサー:Samuel Blaser
エグゼクティヴ・プロデューサー:Werner X. Uehlinger(ヴェルナー・ウーリンガー)
ブレーザー&デュクレの双頭がのたうち回る、広大なる音の水脈
『Boundless』(2011)に続くサミュエル・ブレーザー・クァルテット待望の新作が出た。欧州では昨年の発売だが日本では新年明けての当月となる。サミュエルの魅力はとにかくそのスケールの壮大さ、ジャンルと時代を跨ぐ音楽の掘り下げの深さにあるが、この『As The Sea』でもその特長はさらに深化している。海のように、というタイトルのとおり、得体の知れぬおおきなスケールで満ち曳く音の波動、4本立て。たっぷりとした空間感覚、遠い記憶の領域から、瞬時に砕け散る音の暴威までをゆるやかにつなげる確かな遠近法、メンバーの卓越したタイム感覚が微妙に差異化しつつも同時多発的に存在する。限りなく自由な、だが無意識裡でコントロールされつくしたインプロヴィゼーション。ひとりのプレイに気をとられていると、他方から闖入する音たちに根こそぎ意識を奪われる、抜き差しならぬ緊迫が全体を覆う。不穏さ、という音楽の根源に関わる魅力が健在なのに嬉しくなる。例えば、テクスチュア的なプレイとシンプルなメロディのオーヴァーラップなどの一見乖離したシークェンスも、驚くほどヴァラエティ豊かに、かつ自然に溶接されてゆく。とりわけエキサイティングなのがPart 2で、ジェラルド・クリーヴァーのタイトなロックビートの突進と攪拌のなかを、インにもアウトにも網の目のように潜りぬけては増殖してゆくマーク・デュクレのギターに舌を捲く(実際、ダブルベースとトロンボーンの双方にどっちつかずに接近しながら、両方を砂鉄のごとく吸引している)。だが、一見ノイジーで華やかな役割を演じているように見えつつも、その残響までを視野に入れた音色の多彩さは、余韻の部分でおおくを語るサミュエルの音楽性と相通じるものがある。
若干30歳でこれほどまでの成熟を湛えているサミュエル・ブレーザーはこの先一体どこまで行くのか空恐ろしいほどだが、欧州の管楽器奏者はやはり層が厚い。タイプは違うが、ニルス・ヴォグラムとともにサミュエル・ブレーザーはトロンボーンの双璧を成す、現代の僥倖ともいうべき才能である。貫録が違う。久々に彼の地のライヴハウスの空気が恋しくなった (*文中敬称略。2013年1月12日記。伏谷佳代 Kayo Fushiya)。
【関連リンク】
http://www.samuelblaser.com/
http://www.marcducret.com/
http://www.baenzoester.com/
http://www.myspace.com/geraldcleavermusic
【関連レヴュー】
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011b/best_cd_2011_inter_01.html
http://jazztokyo.com/five/five900.html
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