#  973

『ウェイン・ショーター/ウィズアウト・ア・ネット』
text by 望月由美


EMIミュージックジャパン TOCJ-90077 2,500円(税込)

ウェイン・ショーター (ts,ss)
ダニーロ・ペレス(p)
ジョン・パティトゥッチ(b)
ブライアン・ブレイド(ds)

(注)6.PegasusのみThe Imani Windsが加わる
The Imani Winds
  Valerie Coleman (fl)
  Toyin Spellman-Diaz (oboe)
  Mariam Adam (cl)
  Jeff Scott (frh)
  Monica Ellis (basoon)

1. オービッツ
2. スターリー・ナイト
3. S.S.ゴールデン・ミーン
4. プラザ・リアル
5. ミルラ
6. ペガサス
7. フライング・ダウン・トゥ・リオ
8. 果てしないゼロ・グラヴィティ
9.(ザ・ノーツ)UFO

プロデューサー:Wayne Shorter
エンジニア: Rob Griffin
収録:2011年ヨーロッパ・ツアーのライヴ録音 (6.Pegasusを除く)

6.Pegasus:2010年12月8日、ウォルト・デイズニー・コンサート・ホールにて収録

久しぶりにジャズ本来の突き上げられるような衝動を味わうことが出来る

 43年ぶりのブルーノート復帰第1作として雑誌のインタビュー記事や特集記事など鳴り物入りでリリースされたウェイン・ショーターの新作である。
 久々のウェインのレギュラー・カルテットの演奏に『フット・プリンツ・ライヴ』(verve)の興奮が蘇った。21世紀に入って結成されたウェイン・ショーター・カルテットは『フット・プリンツ・ライヴ』でベスト・ユニットとして目を見張らせた。それから11年を経たカルテットはここで、よりダイナミズムを増し熟成と洗練の極みを展開している。
 ウェイン・ショーター(ts,ss)、ダニーロ・ペレス(p)、ジョン・パティトゥッチ(b)、ブライアン・ブレイド(ds)といったマスター・ミュージシャンが12年にも渡ってコンビを持続すること自体が奇跡的だが4人の音楽に向き合う真摯な姿勢が音にも反映していて久しぶりにジャズ本来の突き上げられるような衝動を味わうことが出来る。
 ウェインは今年の8月で80歳になるというが、統制の利いた透明なサウンドには若々しさが溢れている。ウェインはここでテナーとソプラノを吹いているが量的にもソプラノを吹くシーンが多く、音もソプラノの方が官能的でひきつけられる。(1)<Orbits>ではスティーヴ・レイシーを想わせる透徹したスタティックな響きのソプラノでぐんぐん熱く燃える。マイルス・デイヴィス・クインテット時代の『マイルス・スマイルズ』(CBSソニー)からの再演であるが5分弱の短いなかで完全燃焼するあたり、やはりウェインはプロフェッショナルである。
 このウェインを支えるのはメンバー相互間の緊張感と刺激にある。とりわけブライアン・ブレイド(ds)の時に過剰とも思われるほど衝撃的なリズムが大きく作用しているように聴こえる。ブライアンのシンバルには恐ろしいほどのエネルギーが秘められているからだ。これまでアート・ブレイキー、トニー・ウイリアムス、ジャック・ディジョネット等マスター・ドラマーと演奏を共にしてきたウェインにとってブライアン・ブレイドは今やまさに新たな創造の源泉のひとつとなっているようにきこえる。
(2)<Starry Night>でウェインはテナーを吹いている。サブトーンをともなったおだやかな音色である。ウェインはアート・ブレイキーの3管メッセンジャーズやマイルス・クインテット、VSOP、ウェザー・リポートなど多くの場面で聴いてきたが、ウェインの原点はウイントン・ケリー(p)の『ケリー・グレイト』(Vee Jay)にあると思っている。丁度マイルスの『カインド・オブ・ブルー』(CBSソニー)と同時期のプレイで、リー・モーガン(tp)とウェインの2管にウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)という、アート・ブレイキーのフロントにマイルスのリズム・セクションが一緒になったような編成であるがここでのウェインの艶っぽい糸を引くようなロング・フレーズは今の奏法につながっている。
ウエインは遊び心もあって(3)<S. S. Golden Mean>ではソロの途中ガレスピーの<マンテカ>のフレーズを引用したり (6)<Pegasus>ではロリンズの<オレオ>の一節を持ち出したりと結構ユーモアもあり、ステージで遊んでいる。
(6)<Pegasus>は前年2010年12月のロスでのライヴでカルテットに「The Imani Winds」という5人の木管奏者が加わる9重奏の演奏で23分という長尺。木管のアンサンブルをぬってカルテットがそれぞれ存在感を際立たせるが、ウェインの統率力が圧倒的である。ウェインは近年、木管アンサンブルや室内楽団との共演にも力を注いでいる。
本作『ウィズアウト・ア・ネット』は一昨年のヨーロッパ・ツアーのステージを中心にセレクトされたライヴ・アルバムである。最近はキースにしろ、ロリンズにしろ、ライヴに軸足をおいたミュージシャンが多い。こうしたマスター・ミュージシャン達はこれまで何度か自己の表現の頂点を極め、その都度それを壊しては次のステージに挑戦し、またそれを極めるというチャレンジを繰り返してきているが、ウェインもそのひとり。ジャズにおける即興の一回性、メンバー相互間の刺激から新たな創造を瞬時に生み出そうとしている過程がこのライヴ・アルバムからは伝わってくる。
とりわけ(8) Zero Gravity to The 10th Powerと(9) (The Notes) Unidentified Flying Objects はウェイン、ダニーロ、ジョン、ブライアンというメンバー4人の合作ということもあり、4人がより対等で自由な即興演奏を繰り広げている。このあたりにこのグループの次なる飛躍の鍵が示されているように聴いた。
本稿がアップされる頃にはウェインの日本公演が行われる予定である。ウェイン・ショーター・カルテットを耳にしたファンからは本アルバムがあらためて再認識されるに違いない。(2013年3月 望月由美)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.