#  974

『アントニオ・アダルフォ/フィナス・ミストゥラス』
text by 小西啓一


AAM Music 705(4月2日発売予定)  

Antonio Adolfo (p)
Leo Amuedo (el-g)
Claudio Spiewak (a-g)
Marcelo Martins (ts/fl)
Jorge Helder (b)
Rafael Barata (ds/perc)

1.Floresta Azul (Blue Forest)/Antonio Adolfo
2 .Balada (Ballad)/Antonio Adolfo
3.Giant Steps/John Coltrane
4.Con Alma/Dizzy Gillespie
5. Misturando (Mixing)/Antonio Adolfo
6.Memories of Tomorrow/Keith Jarrett
7.Naima/John Coltrane
8. Tres Meninos (Three Little Boys)/Antonio Adolfo
9 .Crystal Silence/Chick Corea&Neville Potter
10.Time Remembered/Bill Evans

production & musical arrangements ANTONIO ADOLFO
recording engineer ROGER FRERET (ZAGA MUSIC, Rio, Brazil)
mixing engineer CLAUDIO SPIEWAK (C L Audio, Florida, US)
mastering RON MCMASTER, (CAPITOL MASTERING, California, US)

ジャズ・ファンのブラジル音楽入門盤としてもハナマルと言えそう

 アントニオ・アダルフォはブラジルを代表するジャズ系ピアニストで、作・編曲者としても良く知られる大御所だが、邦盤が出ていないせいもあってか、ブラジリアン・ジャズ愛好家以外にはまだあまりその存在が知られていないのは、大変に残念なところ。ただ愛娘のカロル・サボイアは、ボサノバ新世代の旗手の一人で、邦盤も数枚ある。意外にその父親として有名なのかも知れないが、この親子には素敵な共演盤も数枚あるはず。現在はアメリカに移住しているという(確とはしないが…)アダルフォだが、60年代半ばのボッサ・ジャズ全盛期から現在まで、半世紀近くブラジル音楽シーンの第一線で活躍、数多くの優れたアルバムを発表するとともに、ナラ・レオンを始め多くのレジェンドたちとも共演を果たす。またジャズだけでなく、サンバからボサノバ、バイオンなど、広大で膨大でもあるこの情熱の国の様々な音楽にも通じており、関連の書籍も出すほどの教養を持つ実践派でもある。
そんな彼の最新作は、ブラジルの腕利きセッションマンを従え、自身のオリジナル4曲と<ジャイアント・ステップス>や<クリスタル・サイレンス>など、6曲の有名ジャズメン・オリジナルを取り上げたもの。アルバム・タイトルの『フィナス・ミストゥラス』とは、"素晴らしい混合"と言った意味合いで、これはもちろん彼の音楽を形作る2つの大きな要素〜ブラジリアン・ミュージックとジャズ〜を、自身の卓越した感性と知性で、快適にしかも優雅で適度な深みを伴って融合させたもので、聴く者を嫋(たお)やかで心地良い音の楽園へと誘う。
アルバムのオープニングになる<青い森>、そして<バラダ>と続く、そのオリジナルに於けるメロディーの心浮き立つ蠱惑感。ブラジリアン・ジャズはメロディーの流麗さ、リズムの滑らかさ・多様さなどが、その肝と言える訳だが、ここでもその双方がバッチリと決まっている。一方ジャズ・オリジナルでは、トレーンの代表曲<ジャイアント・ステップス><ネイマ>の2曲に象徴されるように、美しくも難解でもある原曲を、ショーロやボッサを基軸に、様々なブラジル音楽の要素も織り込んだ見事なアレンジで、他には無い軽やかで鮮やか、典雅な趣きに富んだ、ジャズ・ブラジレイロに仕立て上げる。自身が最も影響を受けたと言うビル・エバンスの<タイム・リメンバード>や、その才に強く惹かれているキース・ジャレットの<メモリーズ・オブ・トゥモロー>などでも、ブラジリアンとジャズのファイン・ミックスチュアーを図るその腕前は、長年の習熟を写し取り少しの無理もない見事さを示す。
斬新で清新,豊かな質感を持つ上質音楽であると同時に、ジャズ・ファンのブラジル音楽入門盤としてもハナマルと言えそうで、ワイン等を片手に、一人で寛ぎながら愉しむのにも好個の作品とお勧めしたい。(小西啓一)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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#10 Contents
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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