#  976

『Timucin Sahin Quintet/Inherence』
text by 伏谷佳代


between the lines BTLCHR;71233  

Timucin Sahin Quintet
Timucin Sahin(ティムチン・シャヒン;7 string fretless & 6 string fretted electric guitars & compositions)
Tyshawn Sorey(タイシャゥン・ソ−レイ;drums)
Christopher Tordini(クリストファー・トルディーニ;contrabass)
Ralph Alessi(ラルフ・アレッシ;trumpet)
John O'Gallagher(ジョン・オガラガー;alto sax)

1. Inherence(9:32)
2. My Left Foot(10:03)
3. Delayed(9:57)
4. Tikiti(Mahir's father)(5:45)
5. At Toms(7:42)
6. Bakumbaga(Mahir's turtle) (5:14)
7. Buddy and Ringo(1:20)

Produced by Timucin Sahin
Recorded @ Acoustic Sound Studios Brooklyn/N.Y、2012年4月8日
Recording engineer:Michael Brorby(マイケル・ブロービー)
Mixing & mastering engineers:Alp Turac&Pieter Snapper @ Babajim Studios in Istanbul
Cover photo:Volker Dueck(フォルカー・デュック)

シャヒンの充実したエネルギーが漲る一枚

トルコ出身のティムチン・シャヒンは若くしてオランダに移住、ヒルヴェルスムとアムステルダム音楽院に学んだのちに渡米、現在は自らも学んだマンハッタン音楽院で教鞭もとりつつニューヨーク・シーンを中心に活躍しているギタリスト。このレーベルからのリリースは、2009年の『Bafa』(BTLCHR;71221)につづいて2作目となる(本作よりトランペットにラルフ・アレッシが参加、ベースがトーマス・モーガンからクリストファー・トルディーニへ変更)。シャヒンの使用するギターは7弦フレットレスと6弦フレットを組み合わせたダブルネックの特注品。民族音楽の要素も濃厚に漂わせつつ、瞬時にレアな手ざわりとエレクトリックとの間を切り返しては行き来しながら、縦横無尽に紡ぎだされる夥しい音数とビートは圧巻のひと言。泡立つように湧出する音塊・スピード感・緩急の唐突なドライヴ----これらはアルバム全体を貫くキーワードになっている。超絶技巧のうちに息づく、改良が重ねられた末の原型を留めぬ豊穣なクリシェのタペストリー。シャヒンのアイデンティティも属するであろう東方性への傾倒と突き詰めは、複数の大陸を経由しながら非常にニュートラルな境地へと至っている。質・量ともに申し分のないヴォリュームのプレイだ。バンド・メンバーがまた強靭である。楽曲の長さからみてアルバムの前半3曲にウェイトがかかるが、ギターによる急激な拍子の反転に、さらなる興奮度を加速するタイシャウン・ソーレイのドラムス。喩えるならば目の詰まったようなシャヒンのギターには、ソーレイのごとき肝の据わった、重力の落下がそのまま音楽となるようなタイプのドラマーは好相性。無駄な力みが微塵もない。空間に颯爽とした風穴が空き、陽性のドライヴ感が増幅される。また、冒頭のタイトル曲"Inherence"からすでに顕著なのがラルフ・アレッシ(tp)とジョン・オガラガー(a.sax)による金管コンビ(とりわけアレッシの存在感が凄い)。一見、華やかに攻めてゆくのはギターだが、守りに徹しているはずの金管2本の変わり身の早さといったら痛快ですらある。音楽を締めも緩めもする、非常にアウトな立ち位置。大人しくユニゾンでメロディを奏でていると思ったら、次の瞬間には液状化して不穏の咆哮の泥沼と化している。音楽が陰にも陽にも転ずる調整弁を握っているのだが、見事に表向きは鉄壁のホーンとして化けきっている役者ぶりだ。また、個別にみたとき、何とも輝かしく澄み切った、確実な音質を保っていることか。これら4人と比して、ベースのクリストファー・トルディーニの存在は地味に感じられるが、リズムもメロディもしつこいくらい塗りこめられるコンポジションの妙と奏者の個性の発露のなかにあって、また、指捌(さば)きという物理的な駿足(シャヒン/ソーレイ)と、音色自体が内に含みこむ超高速性(アレッシ/オガラガー)のあいだで、なくてはならぬ脹らみや耐性、構造を内側から支え、後押しするダブル・ベースの根源的な力を備えていることに気づかされる。楽曲と即興とが攪拌しあう面白さ、音色としての堂に入った美しさ、技巧面の文句なしの練磨、編成のバランス等、シャヒンの充実したエネルギーが漲る一枚である。今後の活躍に要注目(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。

【関連リンク】
http://www.myspace.com/timucinsahin
http://www.tyshawnsorey.net/
http://www.ralphalessi.com/
http://www.johnogallagher.com/

http://www.betweenthelines.de/en/main/index.shtml

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