#  979

『坂田明/平家物語 実況録音 映像篇』
text by 横井一江


doubtmusic / dmf-148

税込定価:¥2,310
直販特価:¥2,000
http://www.doubtmusic.com/

演奏:
坂田明(reading, voices, as, bcl, per, bells)
ジム・オルーク(g, vo)
田中悠美子(義太夫三味線, 浄瑠璃, 朗読)
石井千鶴(小鼓, 締太鼓, vocalies)
山本達久(ds,per)

ライヴ・ペインティング:中山晃子

part 1
1. 祇園精舎 Gion Shoja
2. 入道逝去 The Death of Kiyomori
3. 六道之沙汰 The Matter of the Six
4. 坂落 The Assult from the Cliff
第二部 part 2
5. 組討の段 The Chapter of the Battle
6. 敦盛最期 The Death of Atsumori
7. 木曾最期 The Death of Kiso
8. 先帝入水 The Drowning of the Former Emperor
特典映像 Extra Video
9. 音戸の舟唄 Sea Chanty of Ondo

翻案:坂田明
構成/演出:高平哲郎

録画:2012年6月24日 新宿Pit Inn
撮影/編集:テレコム・スタッフ

遙か昔の物語を現代に引き寄せ、語りとサウンドで21世紀の聴衆を捉えた

坂田明が話題作『平家物語』を録音したのは2011年。簡潔ながらも凄みを帯びた語りと演奏を多重録音したソロCDは21世紀の聴衆の耳を捉えた。その坂田翻案による『平家物語』の実演となれば、期待は膨らむ。共演者は即興シーンでも様々な演奏家と共演している田中悠美子、秘宝感のメンバーでもある小鼓の石井千鶴、そして坂田との共演も多いジム・オルークに近年の活躍が目覚ましいドラマー山本達久。この顔ぶれはじつに当を得ている。だが、懸念もないわけではない。CDの場合は、その完成度の高さもさることながら、視覚を伴わない音世界だったことが、聴く者の意識を言葉と音により集中させたともいえる。果たして実演では。
「ぎおん〜〜〜しょう〜〜〜じゃ〜〜〜の〜〜…」と、坂田明の語りでライヴが始まった。黄泉の国から呼び寄せられた亡者のうめき声のよう。田中悠美子の太棹の撥音が時代絵巻の幕を落とす。見慣れた新宿ピットインのはずなのだが、いつもとは違う気配が漂っているようにさえ見える。誰しもよく知っている<祇園精舎>から、いきなり<入道逝去>へ。焦熱地獄に堕ちたかのような平清盛の死に際が、映し出される絵巻の画像と相俟ってリアルに迫ってくる。その炎の赤の世界が夕陽のイメージに転換し、「平家物語」にはない坂田の挿話からなんと<セントルイス・ブルース>、そしてフリーへと突入していく。唐突な展開なのだが、不思議としっくりくる。こういうところが坂田翻案の妙味に違いない。その「あはれ」を引き継いでか、<六道之沙汰>へと転換する。「平家物語」最後の灌頂巻にある<六道之沙汰>は、寂光院を訪ねてきた後白河法皇と会った建礼門院が自身の人生を六道に例えて語る場面である。そして、よく知られた<坂落>で一部が終わると思いきや、昭和の奢れる者、田中角栄の物真似で客席を笑わせる。
 二部は、CDにはなかった演目、田中悠美子の臨場感溢れる義太夫語りの<組討の段>から<敦盛最期>という絶妙な流れから<木曾最期>へ。そして最後は<先帝入水>で締めくくる。いずれも平家物語の中で知られた話を違和感なく上手く繋いでいる。絶妙な坂田の語りだけではなく、背景となった共演者の存在が奥行きを与えていたので、よりドラマ性が増していたといえる。また、ライヴではステージ奥の壁に映写した絵巻やライヴ・ペインティングをDVDでは映像化して挿入しているので、CDにはない視覚的な愉しみがあった。CDがモノクロームの世界なら、こちらはテクニカラーの世界といっていい。
平家物語に通奏低音のように流れる「あはれ」、その「諸行無常」感は、いまここで起こっている現実にも通じるものである。坂田は遙か昔の物語を現代に引き寄せ、語りとサウンドで21世紀の聴衆を捉えた。サックス・クラリネット奏者としての滋味掬すべき演奏はもちろんだが、語り部、パフォーマーとしての達者ぶりに再び脱帽しつつ、企画面でもその着眼点に感服した。近年の坂田明は、非常階段との共演といい、今再び旬な音楽家として、その存在感を増している。
(横井一江)

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