須藤伸義率いるトータル・インプロヴィゼーション・ユニット「コンフュージョン・ブルー」の刺激的ながらも明快な第３作

須藤伸義はJazzTokyoの継続的な読者にはすでにお馴染みのゲスト・コントリビュータ。２回に分載されたキース・ジャレットへのロング・インタヴューは話題を喚起し、ライヴ・レポートやディスク・レヴューでも健筆を振るう。須藤は高卒後渡米、大学と大学院を経て現在はサン・ディエゴの研究所で心理学のドクター・コースに励んでいる。学者と音楽家の二足の草鞋といえば、ジャズ界では精神科医でもあったピアニストのデニー・ザイトリンが知られているが、須藤はキース・ジャレットに傾倒、キースの即興演奏を「トータル・インプロヴィゼーション」という手法として捉え直し、衣鉢を継ぐべく、ソロ・ピアノとユニットで経験を積んでいる。この新作はユニット・ヴァージョンによる「トータル・インプロヴィゼーション」で、須藤が率いるプロジェクト・ユニット「コンフュージョン・ブルー」の３作目にあたる。
端的に言って、レギュラー・ユニットで自主制作された前２作に比し、ゲスト２人を加え、主にポスト・プロダクションで寄与したと思われるプロデューサー、アンドレア・ツェンタッツオを起用したことで音楽の輪郭が非常に明確になり、１枚のアルバムとして自立に成功した。須藤が志向する「トータル・インプロヴィゼーション」にとって客観的な目を持つプロデューサーの存在は極めて重要で、過大な評価になる恐れはあるが、ツェンタッツオは、エレクトリック・マイルスに於けるテオ・マセロとして機能したといえるのではないか。
リー・ペンブルトンの思わせぶりなSEに引かれてライル・エリスのアコースティック・ベースが快適なペースでランニングを始めレイ・セイジのドラムスが相乗り、ブライアン・グローダーのラッパがいななき、裏ではロス・ボナドンナのバス・クラが陰気につぶやく。須藤のピアノが登場するのは３分も過ぎシーンが設定されてからである。宴の雰囲気が整ったところで主役の登場、といった趣。何かが起こりそうな予感を抱かせるに充分なオープニングではある。
宴のコースはイントロと雰囲気の設定だけでスタートしたものと思われるが、これだけの手練が揃うとディツシュ毎に素材や味が見事に変化し、しかも「トータル・インプロヴィゼーション」とは思えない鮮やかなまとまりを見せる。
異色ともいえる「定番」は、＜第７楽章＞。主役の須藤が＜ナーディス＞をベースに、付かず離れず、思いの丈をぶちまける。フィーチャーされた須藤は思い切り良くスケール観のあるピアニズムを披露する。アルバムを通じて明快さが際立ち、多くのジャズ・ファンにアピールする快作に仕上がったと聴いた。
なお、「蒼の錯乱」による「東方饗演」というサブ・タイトルは、オリエンタリズムやジャパネスクに夢中なツェンタッツオの影響によるものと思われるが、やや首を傾げざるを得ない。そのツェンタッツオpercが昨年５月ミラノを震撼させた坂田明as、藤原清登bのトリオで７月「JAZZ ARTせんがわ 2013」を襲うという。早くも胸が高鳴っている。
（稲岡邦弥）