#  985

『ギラ・ジルカ & 矢幅歩 SOLO−DUO/Breathing ...』
text by 望月由美


Jump World/Boundee by SSNW
DDCZ-1858 1890円(税込)

ギラ・ジルカ(vo)
矢幅 歩(vo)
竹中俊二(g) on 1,3
中島徹(p) on 2,4,5
北村嘉一郎(vocal drums & voice sound effect)  on 2,4
クラッシャー木村(1st Violin) on 3
上里はな子(2nd Violin) on 3
三木章子(Viola) on 3
遠藤益民(Cello) on 3

1.I Can Recall Spain ( Arthur J.Maren/Al Jarreau /Chick Corea/Joaquin Rodrigo Vidre )
2.Overjoyed (Stevie Wonder)
3.You Raise Me Up (Brendan Graham/Rolf U. Lovland)
4.It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing) (Irving Mills/Duke Ellington)
5上を向いて歩こう (永六輔/中村八大)

エグゼクティヴ・プロデューサー:三田晴夫(Superboy Inc.)
エンジニア:岡本司
収録:2013年1月15日、16日 at STUDIO Dede

 いわゆる男性と女性のツイン・ヴォーカルといえばかつての「ジャッキー&ロイ」がすぐに頭に思いうかぶ。ウエスト・コースト・ジャズにも似た軽妙洒脱なヴォーカリーズはいまだに燦然と輝きを失っていない。しかしこのコンビは2002年ロイの死によってなくなってしまった。
 そして、その後の穴を埋めるように登場したのが「ギラ・ジルカ&矢幅歩」のツイン・ヴォーカル・ユニットであり、『ギラ・ジルカ&矢幅歩 SOLO-DUO Breathing ...』(Jump World)はその鮮烈なデビュー・アルバムである。
 ここでの二人の音楽には生きた唄が聴こえてくる。感性と音楽性がぴったりと一致していて、共にうたう喜びがダイレクトに伝わってくる。ギラ・ジルカと矢幅歩の二人がお互いを尊重し、デリケートなバランスを保ちながらそれぞれの個性を発揮している。
 ギラと矢幅はそれぞれソロ・ヴォーカリストとして活動しながら並行してデュオ活動を行っているので二人のデュオを聴く機会はそう多くはないが、共にステージに立った時の二人は常時デュオ活動を行っているかのように瞬時にして二人だけの世界を描ききってしまうシーンを何度か聴かせていただいている。
 (1)<.I Can Recall Spain>はチック・コリアが1972年、リターン・トゥ・フォーエヴァーの2作目『ライト・アズ・ア・フェザー』(Polydor)で演奏しフローラ・プリムの明るいスキャット・ヴォーカルが一世を風靡した曲<スペイン>に、近年アル・ジャロウが詩をつけて唄い再び大ヒット、以来<.I Can Recall Spain>として親しまれているがギラと矢幅のデュオも最も得意とするレパートリーのひとつ。<アランフェス協奏曲>のメロディーから<スペイン>へと原曲の持ち味をくずさず軽やかにメロディーをつむぐ。二人の声の美しさが原曲の魅力を余すことなく伝えている。昨年と一昨年の秋、二人は阿佐谷ジャズストリートに出演している。二人はその2度とも教会で唄ってくれたが、とりわけ教会の雰囲気と<スペイン>はうまくマッチングし大絶賛で、終演後はCDを求めるファンがCD売り場に殺到していた姿を見かけたことがあるが、そのほかのライブの現場でも大変好評だと聞いている。
スティーヴィー・ワンダーの(2)<Overjoyed>も二人がよく唄うレパートリーのひとつ。矢幅の甘く、しかし切れのよい声の魅力とギラのハーモニーが美しい。スティーヴィーを唄う二人は甘くとけあい艶やかな色彩を漂わせる。
(4)<.It Don't Mean A Thing>はお馴染みのデューク・エリントンの曲。ギラ・ジルカはこれまでに発表したソロ・アルバムでもエリントン曲を唄っている。1stアルバムの『all Me』(Jump World)では<I Got It Bad And That Ain't Good>を、2ndアルバム『appearance』(Jump World)では<I Love You Madly>をそれぞれ唄っている。ジャズからR&Bまで幅広い領域で音楽活動をしているギラ・ジルカであるが根っこにエリントンを絶やさないあたりにジャズへの軸足がしっかり見てとれる。二人がスインギーにソロとオブリガードを繰り返しながら追いかけっこをして楽しんでいる様は聴いていて心が和んでくる。
そして(5)<上を向いて歩こう>は1月の末、英BBCのニュースマガジンが発表した<世界を変えた20曲>に選ばれ、いま再び世界で注目されている坂本九のヒット曲。このタイミングでの選曲はジャスト・タイミングと思ったが、レコーディングはBBCの発表前なので日頃から二人が好んで愛唱している曲なのかもしれない。もともとは子供の頃から邦楽に慣れ親しんで体に邦楽がしみこんでいた坂本九の符牒にあわせて永六輔/中村八大のコンビが作った曲と聞いているが、二人は日本語でしっかりと自分の感情をこめて唄っている。
今回の『SOLO-DUOギラ・ジルカ&矢幅歩 breathing…』(Jump World)は二人にとって結成から7年という月日を重ねて培ってきた本当に求めるものが肩肘はらず自然な形で美しく結実している。
 今回のアルバムはツイン・ヴォーカル「SOLO-DUO」の正式なお披露目の意味合いをこめて日頃ライブでよく唄っている人気レパートリーから選曲したもののようで、二人でしか表現し得ない世界をつくりだしていて説得力があり二人の熱烈なファンからはまさに待望の一作であり、新しくアルバムを聴く人には新鮮な驚きをもたらすであろう。
 なお、二人は5月2日(木)横浜Motion Blue YOKOHAMAをスタートにSOLO-DUO ギラ・ジルカ & 矢幅歩『breathing...』発売記念ライブを行う予定である。(望月由美/2013年3月)

♪ SOLO-DUO ギラ・ジルカ & 矢幅歩『breathing...』発売記念ライブ
出演:ギラ・ジルカ(vo) /矢幅歩(vo)
竹中俊二(gt) /中島徹(p) /北村嘉一郎(voice percussion)

5/2(木) 横浜 Motion Blue YOKOHAMA
OPEN 17:30/START 19:00(1st)/21:00(2nd)
CHARGE:\4,000(自由席)
TEL:045-226-1919(11:00〜22:00)

6/4(火) 名古屋 BLUE NOTE
1st Stage OPEN 17:30/START 18:30
2nd Stage OPEN 20:30/START 21:15
CHARGE:\6,500 (入れ替えあり)
TEL:052-961-6311(平日11:00〜20:00)
(4/9予約開始)

6/5(水) 大阪 Mr.Kelly's
OPEN 18:00/START 19:30(1st)/21:15(2nd)
CHARGE:\4,700(前売り)/\5,000(当日)
TEL:06-6342-5821(平日17:00〜23:00)
(4/1予約開始予定)

6/13(木) 渋谷 JZ Brat
OPEN 17:30/START 19:30(1st)/21:00(2nd)
CHARGE:\4,725(前売)/\5,250(当日)
TEL:03-5728-0168(平日15:00〜21:00)

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