# 986
『Michel Reis/Hidden Meaning』
text by 伏谷佳代
Double Moon DMCHR 71115 | ![]() |
Michel Reis(ミシェル・レイス;pf)
Stefan Karl Schmid(シュテファン・カール・シュミット;ts, ss, cl)
Robert Landfermann(ロバート・ラントフェルマン;b)
Jonas Burgwinkel(ヨナス・ブルクヴィンケル;ds)
Repercussions(6:11)
Prescience(1:02)
Seduction
Hidden meaning
Americana
Haunted house
Inside the jewel box
What comes later, I can think about later
Elegy
The Birdwatcher
Until the next time
All composed by Michel Reis
録音:
2012年6月19、20日@Loft Studio, Koeln
レコーディング・エンジニア:
Christian Heck(クリスティアン・ヘック)
ミキシング・エンジニア:
Brian Montgomery(ブライアン・モンゴメリ)
プロデューサー:
Michel Reis & Volker Dueck(フォルカー・デュック)
オーソドックスかつ新鮮な風をはこぶ、ヨーロピアンならではの気品溢れる1枚
ミシェル・レイスはルクセンブルク出身のピアニスト/コンポーザー。早くから頭角をあらわし、ルクセンブルク市立音楽院を終了後渡米、バークリーとニューイングランド音楽院で修士号を得ている。これまでにアメリカのレーベルより2作品をリリースしているが、ヨーロッパのレーベルからは本作がデビューとなる。かのダニーロ・ペレスをはじめ、ミシェルの音楽に接した第一級の音楽家はこぞってその才能を賞讃する。アルバムをとおしていえるのは、細部にわたって緻密なパースペクティヴが張りめぐらされていることで、その安定した構築力は年齢を超えた成熟ぶりを感じさせる。思えば90年代後半から隆盛をみせたベースレス編成にリスナーの耳も慣れきっているなか、ダブル・ベースとドラムスによるオーソドックスなリズム隊への回帰はあちこちで見受けられる。このクァルテットも然り(メンバーたちは実験的なプロジェクトにも並行して携わってはいるが)。よくあるようにピアノがパーカッシヴな機能を担うのではなく、あくまでメロディ中心にのびやかなラインを描く。音色もきわどすぎることはなく、木目の材質感を芯にのこした、有機的でまるみのある音だ。強音でのアタックでも、上品かつあたたかなリリシズムが維持される。本作で3管をあやつるシュテファン・カール・シュミットとの絡みは、メロディラインに馥郁(ふくいく)たる振幅をあたえる。メロディという音楽の本質的な表情を支えるのが、ヨナス・ブルクヴィンケルとロバート・ラントフェルマンという傑出したリズム隊であることは、アルバムを一聴すれば明白だろう。ブルクヴィンケルのドラミングのピッチの精確さとスタミナ、みごとなコントロール配分、そして音響面での柔軟性が生みだす豊かなディメンションが素晴らしい。事実、ピアノの詩情を後押しする繊細なサポート力だ。ヨーロッパで高い評価を得ているパブロ・ヘルド・トリオのメンバーとしてご記憶の方も多いとおもう(余談だが、このブルクヴィンケルとサイモン・ナバトフ、マルチリード奏者のヘイデン・チスホルムによるトリオの新譜もリリース予定だという。楽しみな顔ぶれだ)。同じくP.H.トリオのベーシストでもあるロバート・ラントフェルマンも、30代では超売れっ子。そのリズム・キープ力は侘びさびの情緒すら漂う老獪なプレイで、広く「技術」というものについて考えさせられる。例えば、3曲目の"Seduction"などでの鼓動のような音楽の隈取りは、コンポジションとピアノの精妙さをいっそう引き立てる。リリカルなピアニストをあらゆる方向から鼓舞するリズム隊だ。派手さはないが、聴けば聴くほどに細部の充実とその横溢を噛みしめるアルバム。身体に浸み込みやすいメロディと音色。若いメンバーながら、ヨーロピアンならではの気品が溢れる。アヴァンギャルドな音楽経験を糧に、このようなアルバムも創ることのできる若い世代の底力を嬉しくおもう(文中敬称略。Kayo Fushiya)。
【関連リンク】
http://www.michelreis.com/
http://www.stefankarlschmid.com/
http://www.robertlandfermann.com/
http://www.jonasburgwinkel.com/
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.