# 987
『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』
text by 望月由美
ピットインミュージック PILM-0002 2,500円(税込) | ![]() |
奥平真吾(ds)
太田 剣(sax)
宮川 純(p)
須川嵩志(b)
1.アイ・ディドント・ノウ・ホワット・タイム・イット・ワズ (R.Rodgers)
2.スケーティング・イン・セントラル・パーク(J.Lewis)
3.マッコイ・ネクスト・ブロック(奥平真吾)
4.マコンデ(奥平真吾)
5.ザ・ピーコックス(J.Rowles)
6.オーシャン・ドリームス(奥平真吾)
プロデューサー:奥平真吾
共同プロデューサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エンジニア:菊地昭紀(ピットインミュージック)
PAオペレーター:藤村保夫(新宿ピットイン)
録音:2013年1月30日, 新宿ピットインにてライヴ録音
奥平真吾(ds)のピットインレーベル第2作目となる本作は本レーベルのポリシーどおり「新宿ピットイン」でのライヴ録音である。
奥平真吾は今年47歳、いま最も勢いのあるドラマーの一人である。9歳で天才ドラマーとしてデビューしてから早くもキャリアは38年ということになるがそのドラムは若々しく、生き生きとした躍動感に満ちている。そしてその繊細なスティックさばきは共演するミュージシャンを力強くプッシュする。また奥平真吾の音は切れがよいので近くで聴いてもうるさくなく、むしろドラム・サウンドのシャワーを浴びるのは耳に心地よい。
奥平真吾の本レーベルへのファースト・アルバムは2008年の『The Force』(PILJ-0001)で、ピットインレーベルが発足した際の記念すべきレーベル第1弾でもあった。1作目録音時はまだニューヨークに滞在中でニューヨークから自分のオルガン・トリオを率いていわば一時帰国し、古巣ピットインでライヴ・レコーディングしたもので管には本多俊之(sax)がフィーチャーされていた。その後2010年に奥平真吾は家族と共に帰国し日本での生活を始める。そして新生「奥平真吾 THE FORCE」を結成、ピットインをホームとして本格的な活動を始めている。現在のメンバーに固定してほぼ2年半になり、バンドとしてよい具合に練れてきたこの時期にレコーディングに臨んだもの。
アルバムには耳になじんだジャズ・スタンダードが3曲と奥平真吾のオリジナル曲3曲がバランスよく収録されている。
1曲目の<アイ・ディドント・ノウ・ホワット・タイム・イット・ワズ>はロジャース&ハートの曲でチャーリー・パーカー(as)の『ウイズ・ストリングス』(Verve)や『ソニー・クラーク・トリオ』(Blue Note)など多くの名演が残されているが、ここでは奥平真吾のシンバルの連打からスタートし快調にスイングしてゆく辺り、さながらGJT、グレイト・ジャズ・トリオがピットインに舞い降りたようなグルーヴが横溢する。このGJTのムードの源泉は奥平真吾のトニー・ウィリアムス(ds)を彷彿させるようなドラミングにある。シンバル・レガートにロールにソロにと力強くバンドをプッシュしている。
2曲目の<スケーティング・イン・セントラル・パーク>はジョン・ルイス(p)の名曲。やや、ゆったり目のミディアム・テンポでスマートな太田剣のアルトが原曲のイメージをくっきりと描く。
3曲目の<マッコイ・ネクスト・ブロック>は奥平真吾のオリジナルで、なんでも奥平がニューヨークで暮らしている時、隣のブロックにマッコイ・タイナーが住んで居たのでタイトルにしたのだそうだ。奥平真吾の設定する快速調のリズムに乗ってマッコイのムードがただよう。アルトとドラムのバースがライヴの臨場感を出していて新鮮である。
4曲目の<マコンデ>も奥平真吾のオリジナルでこのバンドのテーマ的な存在の曲と聞いているが、ダラー・ブランドを想わせる明るく陽性のノリで「The Force」のカラーを出している。
5曲目の<ピーコックス>はスタン・ゲッツ(ts)の名演が耳に残っているジミー・ロウルス(p)の曲だが宮川純のソフィスティケートされたピアノと須川嵩志の重心の低いベース・ソロがいい。須川は日野皓正4にも加わっているが、そのずっしりと重い音は刺激的である。太田剣のソプラノと須川嵩志のアルコとのユニゾンでジミー・ロウルスの美しいメロディを奏でるシーンで、ゲッツとは違ったリリカルな世界を表現している辺りは斬新に響くし、奥平真吾も軽妙なブラッシュで好サポート。こうしたセンシティヴな演奏と次の6<オーシャン・ドリーム>のリズムの饗宴のような軽快な演奏を併せて表現できるところが「奥平真吾 THE FORCE」の柔軟性の高いところである。
ピットインレーベルは新宿ピットインを軸に活動しているミュージシャンの表現の場として制作を行っているが奥平真吾は早くも二作目の発表となったことからもピットインとの協力関係が緊密で根強いことがうかがわれるが、奥平真吾もホームグラウンドである新宿ピットインへの思いと新生「奥平真吾 THE FORCE」にかける意気込みのすべてをこの夜の演奏にのせてピットインの期待に応えている。アルバム『奥平真吾 THE FORCE Live At PIT INN/I didn't know what time it was』(PILM-0002)にはピットインがライヴを始めた1966年に生まれ、ある意味ピットインと共に育ってきた奥平真吾のバンド「奥平真吾 THE FORCE」の今を伝えてくれると同時に常に日本のジャズ・シーンを牽引してきた新宿ピットインの歴史の重み、懐の広さを改めて感じる。(望月由美/2013年4月)
追悼特集
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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