#  989

『Keith Jarrett|Gary Peacock|Jack DeJohnette/Somewhere』


ECM2200/ユニバーサル・ミュージックUCCE-1138 2,600円(税込)  

キース・ジャレット(p)
ゲイリー・ピーコック(b)
ジャック・ディジョネット(ds)

1.ディープ・スペース*〜ソーラー
2.アラバマに星墜ちて
3.ビトゥイーン・デヴィル・アンド・ザ・ディープ・ブルー・シー
4.サムホエア=エヴリホエア*
5.トゥナイト
6.アイ・ソート・アバウト・ユー
*Keith Jarrett

録音:2009年7月11日 KKL、スイス・ルツェルン
プロデューサー:キース・ジャレット&マンフレート・アイヒャー

キース節全開のトリオ結成30周年記念アルバム

久しぶりにこのトリオを聴いた。4年前のスイス・ルツェルンでのコンサート・ライヴだがキース節全開である。トリオ結成30周年記念アルバムということでもありキース・ファンの期待に応えるに充分な内容といえる。
キースの「サムホエア」と聞くと、誰しもが初期の人気アルバム『サムホエア・ビフォー』(1968/Vortex)に思いを馳せることだろう。『サムホエア・ビフォー』といえばディランのヒット曲<マイ・バック・ページ>。たまたま、村上春樹の新作の書評に目を通しながらこのCDを流していたので、村上春樹から<マイ・バック・ページ>を連想、さらにはジャロレス評論家・故小野好恵にまで思いは飛んでしまった。小野は村上のジャズ・カフェ「ピーターキャット」が地元の国分寺にあった頃からの馴染みで、立ち退きで店が鳩森神社に移転したあとも仕事仲間を誘い連日のように店に通っていた。僕もその中のひとりだったのだが、そんな縁で小野が編集長を務めていた詩誌『ユリイカ』と小野が立ち上げた『カイエ』にECMの広告を出稿することになった。表4を年間契約したので裏表紙を<マイ・バック・ページ>としゃれ、作家や詩人などのレコードにまつわるエッセイを連載していた。ベテランの白石かずこを始めデビューまもない村上 龍や村上春樹が快く筆を執ってくれたのはひとえに小野の紹介による。
さて、本作だが、静寂をそっと払うようにキースのソロで幕を開ける。いつもながらの何かを予感させるようなキースのモノローグである。数分の後、キースの世界に入り込みかけた頃合いを狙ったかのようにキースの左手が動き<ソーラー>へスネイク・インしていく。ゲイリーとポール・モチアンdsを率いたトリオによる『ザ・ディア・ヘッド・イン』のオープニングを思い出させるパターンである。トリオはこの<ソーラー>で魅力を全開、完全に聴衆の心を鷲掴みにしてしまう。三者による刺激的なインタープレイ、ゲイリーのベース・ソロ、キースは早くもトランス状態に入ったかのように愉悦の声を上げ、ピアノに合わせてハミングする。結果としてこの<ディープ・スペース〜ソーラー>がこのアルバムのベスト・トラックと言えるかも知れない。<アラバマに星墜ちて>は文字通りのバラード。よく歌うキースのピアノ、ベース・ソロのフィーチャーもあり、ゲイリーの老化を心配するファンにはありがたいギフトである。<ビトゥイーン〜>はアルバム初収録だろうか。このトリオが得意とする歌もので、ベースとドラムスのソロやバースもあり、ジャズ的な扱いがされた1曲。
上で触れた<サムホエア・ビフォー>はキースのオリジナルだが、ここで演奏される<サムホエア>はバーンスタインの作品で、次の<トゥナイト>とともに『ウェストサイド物語』のために書かれた曲であることは良く知られている通り。この<サムホエア>から<エヴリホエア>へと続く流れは約20分あり、かつてのキースを彷彿させるに充分な展開。執拗に繰り返される左手のパターンが独特のグルーブ感を醸成し、ついにはキースの呪術の世界にはまりこむ。溺れたければとことん溺れるも良し、術中から逃れるためにはプレイヤーをスイッチ・オフする以外に手はない。
<トゥナイト>は、いきなりテーマから始まり、スピード感のある演奏で口直しにはもってこい。スロー・バラードの<アイ・ソート・アバウト・ユー>でクールダウンして、さあワインでも。(稲岡邦弥)

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