# 991
『ティチアン・ヨースト・トリオ/さよならの記憶−ホルスト・ウェーバーへ捧ぐ』
text by 望月由美
Enja/MUZAK MZCE-1269 2,520円(税込) |
ティチアン・ヨースト(p)
トーマス・スタベノウ(b)
マリオ・ゴンジ(ds)
1.黄、白、青の幻想
2.ジョイフル・ノーヴェンバー
3.小曲
4.ユナイテッド・イン・ザ・ビッグ・ブルー
5.ファン・イン・ザ・フォレスト
6.真実の言葉
7.ティチズ・ビジネス
8.ノット・アン・イージー・ウェイ・トゥ・ゴー
9.ブー・ビー・ドゥー・バップ
10.76号室
11.隠れ家 (日本盤ボーナストラック)
12.ゴールデン・オクトーバー (日本盤ボーナストラック)
プロデューサー:Nadja Weber、Werner Aldinger
エンジニア:Jason Seizer
録音:2012年7月8日@Pirouet Studio Munich
副題が『Tribute To Horst Weber』となっており、ティチアン・ヨースト(p)がenjaの故ホルスト・ウェーバーに捧げたアルバムである。ティチアン・ヨーストはこれまで故クラウス・ヴァイス(ds)とのトリオを中心に澤野工房から4枚アルバムを発表しているが、ポピュラーなスタンダードやジョビン曲集などなれ親しんだ曲を題材にとりあげて、軽やかにスイングする演奏でヨーロッパ・ピアノ・トリオ・ブームの一翼を担い、澤野工房のブランド・イメージの確立に貢献してきているが、今回の新作はenja/MUZAKからのリリースで、全曲オリジナルで構成され、ホルスト・ウェーバーへの捧げものとなっている。
全曲オリジナルで、しかもメンバーも一新されているが、演奏そのものはいつもどおり格式ばったところがなく至極オーソドックス、リラックスしたスインギーな曲ばかりである。そして、節々でどこかで聴いたことがあるような耳馴染みのよいフレーズが聴かれ驚かされるが、これはティチアン・ヨーストのジャズとの接し方、とりわけハードバップとの係わりが、長いキャリアの中で身に付いたものが自然ににじみ出てきたもののように聴こえる。トーマス・スタベノウ(b)とマリオ・ゴンジ(ds)の二人もフォー・バースやソロなどを交えながら出しゃばることなく的確なサポートをしている。ヨーロッパ録音でいつも感じることであるが、ベースの音色が弦楽器らしいしなやかさでとらえられていて音楽を支えているので安心して聴いていられる。
このアルバムは作品全体がホルスト・ウェーバーへの捧げ物となっていてトリオの演奏のほかでもホルストを偲ぶ創りになっている。例えばジャケット写真はホルストの長年の友人である中平穂積さんが撮影した山中湖の写真が使われている。釣好きのホルストと一緒に釣を楽しんだ思い出の地なのだそうだ。そしてライナー・ノーツには「新宿DUG」でホルスト、中平さんと日野皓正(tp)、山下洋輔(p)の4人が楽しげに談笑する写真が使われ親日家ホルストを偲んでいる。また、ホルストと親交の深かったミュージシャンがホルストへの想いを語っているが、ホルストのジャズへの情熱、釣り、鮨、ビール、ラーメン等々興味深い話が綴られていて、これらの追悼文を読みながらトリオの演奏を聴くことによってホルストのイメージが再び蘇ってくる。
ホルスト・ウェーバーはフルート奏者、天田透のアルバム『ベルリン』(enja/MUZAK)をプロデュースしたあと、ティチアン・ヨーストの新作をつくる構想を持っていて、ティチアンと話を進めていたそうであるが、昨年の2月24日、惜しくも肝臓がんで亡くなってしまった。この日は天田透(fl)の『ベルリン』が日本でリリースされる前日のことでホルストもさぞ残念だったことだろう。
ティチアンは生前のホルストからこれまでのスタンダード路線ではなくオリジナル曲への取り組みを提案されていたというがティチアンはこのホルストの意向に沿ってレコーディングに臨んだものだという。ティチアン・ヨースト・トリオの、軽いスインギーな演奏は陽気でビールが好きでジャズを愛したホルスト・ウェーバーへの良き追悼作であり、また、爽やかでクールなヨーロッパ・ピアノ・トリオの典型としても楽しめる。(2013年4月 望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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