#  992

『Michael Bates | Samuel Blaser Quintet/One From None』
text by 伏谷佳代


Fresh Sound FSNT414  

Michael Blake(マイケル・ブレイク;sax)
Samuel Blaser(サミュエル・ブレーザー;tb)
Russ Lossing(ラス・ロッスィング;pf, fender rhodes)
Michael Bates(マイケル・ベイツ;db)
Jeff Davis(ジェフ・デイヴィス;ds)

1.One from none(9:11)
2.Van Gogh(7:14)
3.Dogfish(8:10)
4.Recurring dream(8:01)
5.Balance(6:42)
6.Uncertain salvo(6:09)
7.Rising moon(9:47)
8.It began to get dark(5:17)

Tracks 1,2,3,5,6-----composed by Michael Bates
Tracks 4,7,8-----composed by Samuel Blaser

録音:2011年12月11日@テデスコ・スタジオ, ニュージャージー
エンジニア:Tom Tedesco(トム・テデスコ)
ミキシング&マスタリング・エンジニア:David Darlington(デイヴィッド・ダーリントン)@ベイス・ヒット・レコーディングNY
プロデューサー:Michael Bates, Samuel Blaser & Jordi Pujol

サックスのマイケル・ブレイクとトロンボーンのサミュエル・ブレーザーによる2ホーンを柱に構えるクィンテット。コンポジションはサミュエルと、もう1人のマイケルことマイケル・ベイツによる。冒頭のタイトル曲<one from none>が始まるや否や、コンテンポラリー・ジャズに慣れた耳にはご無沙汰の「ジャズっぽさ」が濃厚にたたえられていることに気づく。深いビターなテイスト。どこか懐かしさすら覚える。拙評でも何度も取り上げたし、いまや世界のジャズ・シーンで期待の的であるサミュエルであるから、マイケル・ブレイクとの管アンサンブルのレヴェルの高さは言わずもがな。小細工は不要で、楽器の美質をストレートかつ縦横無尽に鳴らしきる。息吹が途切れる隅ずみまで、十全に生を全うするロングトーン。超高速の音の柱が2本立てだ。それと交錯するように、ラス・ロッスィング(p)、マイケル・ベイツ(db)、ジェフ・デイヴィス(ds)が駆け抜けてゆく。オーソドックスな編成ながら、個々の楽器の属性と役割をひじょうにクールに転換させているそのセンスに脱帽。たとえれば、音楽のハード部分がサックスとトロンボーンで、コンテンツがピアノ・ドラム・ベースといったところ。敏腕ぞろいの後者のなかでも、特筆すべきはラス・ロッスィングの研ぎ澄まされた音色の彩色力。ローズと生ピアノを実に効果的に使い分ける。実際、ときにヴィブラフォンのような質感を漂わせるそのローズは、アルバムのクラシカルな気品を高めている。徐々に核心にせまるように、第4曲<recurring dream>で硬質な生ピアノに成り代わるさまは、さながら植物の開花に立ち会うような匂いたつうつくしさ。何よりこの曲はコンポジションが秀逸だ。皮膚感覚で入り込むナチュラルな満ち曳きのロマン。映画音楽にも似つかわしい(たいていのECMファンは気に入るのではないか)。この1曲だけでも買いのアルバム。プレイヤーとしてのみならず、コンポーザーとしてのサミュエルの充実を堪能できる。サミュエルの手による曲は3曲だが、マイケル・ベイツの曲の数々とも相性がよく、独りよがりとは無縁の客観的で成熟した世界観が確立されている(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。

関連レヴュー:
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011b/best_cd_2011_inter_01.html
http://www.jazztokyo.com/five/five971.html

http://jazztokyo.com/five/five900.html

関連リンク:
http://samuelblaser.com/
http://www.michaelblake.net/
http://outsidesources.org/
http://www.russlossing.com/russlossing/Welcome.html
http://www.jeffdavisdrums.com/

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

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#10 Contents
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