# 993
『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」&第10番ヴァイオリン・ソナタ全集(第2集)』
EMIクラシックス TOCE-90243 2500円(税込) |
演奏者:樫本大進(vn)コンスタンチン・リフシッツ(pf)
曲目:ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調「クロイツェル」 ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調
録音場所:ベルリン・テルデック・スタジオ
録音日時:2012年12月27〜31日
プロデューサー&エンジニア:エクハルト・グラウシェ
誰もが一目置く"ヴァイオリン・ソナタの王者"として、この分野の長い歴史にひときわ高くそびえ立つベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」。でもちょっと待ってほしい。この曲、巷にもはや自明のことと思われている通りの、果たして非の打ちどころのない名曲だろうか。これはひねくれ者の私が、CDやステージで接するたびに決まって抱く、大いなる疑問である。
ベルリン・フィルのコンサートマスターという大役を手中にした樫本大進が、ほぼ同世代のウクライナ生まれのピアニスト、リフシッツをパートナーに、目下、ベートーヴェンのソナタ・ツィクルスのレコーディングを進めている。このたびの第9番「クロイツェル」と第10番は、先の第6〜8番の3曲に続く、全集企画の2枚目である。期待以上の成果と言っても良かった1枚目に負けず劣らず、今回も出来映えはまことに見事なもの。久し振りに登場した若手本格派ヴァイオリニストの、面目躍如たる立派な演奏だ。
だがしかし・・・。それでもなお、私は最初に述べた疑問から逃れることができない。「クロイツェル」という巨峰を前にして、若い二人ではあるがとりたてて気負いもなく、静かにデュオをスタートする。それはちょうど、これから始まる一日の充実を予感する、夜明けのすがすがしい大気の感触に近い。だがそれは束の間の話。やがて猛り狂う(?)ベートーヴェンのスコアは、血気盛んな年ごろの二人を激しく駆り立てて、結局はお決まりの大立ち回りに突入せざるをえないのである。もっとも樫本とリフシッツのデュオは、音楽的な質がきわめて高いがゆえに、よくみかける、秩序なき壮絶バトルに陥ることは幸いにもない。それでも私は、正直に言えば音楽という幸せな世界に、ベートーヴェンはなぜこんなにも荒々しい闘争を持ち込まなければならないのかと、いつものように思わず首をかしげてしまうのだ。
奏者二人の名誉のために、あわてて付け加えておこう。たとえば第2楽章変奏曲主題の美しさや、起伏に富んだ終曲の力強い構築など、このデュオの非凡さを挙げれば枚挙に暇がない。
さて、「クロイツェル」のあとでソナタ第10番ト長調を聴くと、こちらはまた何とチャーミングな音楽なのかと、感動しきりなのもいつものこと。とりわけ、さながらのどかな里山に鳥の声が優しく響き渡るような、こよなく美しい曲頭には、心の底からほっとする。ただし樫本とリフシッツの若々しいデュオは、この部分、目を細めて静けさの中にそっと身を置く老人じみたアプローチではむろんなく、田園的な対話の中にもいきいきした生命の躍動を、さすがに感じさせてくれるのではあるけれども。(大木正純)
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