#  994

『Andrea Centazzo/ Akira Sakata/ Kiyoto Fujiwara – Bridges』


Ictus Records 162  

Andrea Centazzo: percussion & kat mallet
Akira Sakata(坂田 明): alto sax, clarinet & vocals
Kiyoto Fujiwara(藤原清登): double-bass

Bridge #1/ Bridge #2/ Bridge #3/ Bridge #4/ Bridge #5

All songs were spontaneously composed/improvised by Centazzo/Sakata/Fujiwara
*Bridge #5 is based on Stella by Starlight theme.

Recorded on May 25, 2012 at JAPZITALY, Milano, Italy
Original recording courtesy of Emanuele Canazi

JAPZITALY, Jazz Aid for Japanese Children was produced by Roberto Zorzi and Kenny Inaoka.

Mixed, edited, designed & produced by Andrea Centazzo, June 2012

 早いもので、本作に納められているライヴをイタリア・ミラノで目撃してから、もう1年も経ってしまった。このコンサート実現までの数々の苦労やハプニングを知っているだけに(その後の後始末も大変で、約束された立替金の未精算や協賛金の不払いなどまだ幕が引かれていないようだが)ここに聴くことの出来る演奏は、ちょっとした奇跡に思える。

イタリア人ギタリスト=ロベルト・ゾルジが東北大震災の惨状を耳にし、被災した子供達のためのチャリティ・コンサートを画策したのが、事の発端である。筆者が、彼からその企画を共通の友人=アンドレア・チェンタッツォ(作曲家・打楽器奏者)を通して聞いたのが、たしか2011年の初秋頃だったと思う。「日本側ミュージシャンの推薦/協賛金支援者への打診」を頼まれたので、本誌の稲岡編集長に相談したところ、阪神淡路大震災の際のベネフィットCDの制作やチャリティ・コンサート開催の経験を生かして何とかトライしてみようとの返事があった。その後の経緯は省略するが「大らか(出たとこ勝負の?)」なイタリア人気質と、生真面目な日本側とのギャップを痛感する事態の連続を経験することになった。

*全体のイヴェント・レポートは、ミラノ在住の日本人ジャーナリスト=堂満尚樹さんのヴィヴィッドな記事を是非参照願いたい:http://www.jazztokyo.com/live_report/report436.html

本題のトリオにしても「不幸な事故がもたらした偶然の産物」だった。当初アンドレアは、ECMの諸作にも参加している優れたリード奏者=ロベルト・オッタビアーノとのデュオで2012年5月25−27日にかけて開催されたJAPZITALYの第1日目に出演予定だった。しかしコンサート開催3日前に、オッタビアーノの娘さんが、交通事故で重傷を負い、参加不能の事態に。急遽、坂田明さんと藤原清登さんに、アンドレアとの即席トリオでのを出演を要請、両氏とも快く引き受けてくれた次第。

堂満さんも書いておられるように、会場は(たしか)ミラノ市の中心街から離れた高等専門学校の講堂で、音楽の発表に適している場所ではなかった。まだ5月だというのに、日本の真夏を思わせるような蒸し暑い日だった。イタリア側の不手際で会場がコンサートの数日前まで二転三転したため告知が行き届かず、熱心なファンを除いてはまばらな観客に過ぎない入りだった。

本編のトリオは第2セットに出演したが、藤原さんは第1セットで出演した筆者のトリオにも参加して頂いていた(リハが行き届かず藤原さんには大変な迷惑をかけることになってしまったが)。ドラムは、ドン・バイロンclを含む自身のグループ他で気を吐く若手有望株のトマーゾ・カペラート。チャリティ・イヴェントのため、日本から自身の愛器を持参できなかった藤原さんに提供されたのは、学生用のベース(それも安物の)。気候のせいで、チューニングは狂いやすいし、また、鳴り難く、弾きこなすのは大変だったと思う。しかし、藤原さんが弾くと凡百のベーシストとは違うペーソスが漂ったのも、また、事実。

第1セットが終わって休憩後、アンドレアが、まずソロで二曲演奏。そして本アルバムに収められているトリオでの演奏となった。彼ら3人の共演はこれが初めてのことで、もちろんリハーサルをする時間などはなかった。

アンドレアと坂田さんの諸作をご存知ならば、二人の共演は意外に思えると思う。アンドレアは、ヨーロッパの"フリー・ミュージック"のパイオニアの一人だが、思索的で抑制の効いた音楽を好む。坂田さんは、全盛期の山下洋輔トリオでもお馴染みの燃えさかる炎を連想させる激情的なプレイが大きな魅力だ。だから、一見「油と水(水と油?)」の組み合わせなのだが、演奏開始直後から見事スムースに、何とも芳醇な共通の音楽的土壌を見つけ出してしまった。藤原さんは、両雄が見事な歩みよりを見せるなか、彼らのプレイをガッチリと受け止め見事なサポートを披露するだけでなく、ここぞという時には前面に出て、ピンと張りつめた緊張の糸を演奏に与え続けた。

これは、彼ら3人が(お互いのプレイを)「聴く」という、演奏家としての基本中の基本を体現している証明に他ならない。そして3人の"マエストロ"の懐の深さをまざまざと実感できるステージだった。普段このような音楽に接する機会の少ない(と思われる)聴衆から熱心な拍手が演奏後自然に湧き上がった事実が、彼らの創造した音楽の芸術的純度を実証していた。スケジュールの変更を知らずに駆け付けた渡辺貞夫さんの追っかけを自称する日本の3人のご婦人方も興奮冷めやらぬ表情で「素晴らしかった!」を連発していた。

事の流れからレコーディングの予定など無論無かったが、幸いアンドレアの友人が簡易機材でデジタル録音をしていた。その音源に必要最小限のエディット/マスタリングを施したのが、本作である。タイトルが物語るように、まさに日伊の友情の『橋』が生んだ作品だ。幸い、制作の経緯を知らぬ海外のメディアの評価も高いようである。

より良い状況で彼らの共演が再現する事を祈りつつ...。
Nobu Stowe (須藤伸義)

*『Andrea Centazzo/ Akira Sakata/ Kiyoto Fujiwara – Bridges』は、アマゾン/ディスク・ユニオン/HMV等で購入可能。

**ミュージシャン/レーベルの詳細は、以下のホーム・ページで:

Andrea Centazzo (www.andreacentazzo.com)
Akira Sakata (www.akira-sakata.com)
Kiyoto Fujiwara (www.kiyotoclub.com)

ICTUS RECORDS (www.ictusrecords.com)

***関連サイト:
http://www.youtube.com/watch?v=eiea4GOp0ss
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2012b/best_live_2012_inter_03.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report437.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report438.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report439.html

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