#  996

『いそしぎ/明田川荘之』
text by 望月由美


メタ花巻アケタズディスク MHACD-2640 2,800円(税込)  

1.いそしぎ(The Shadow Of Your Smile)
  明田川荘之(p) 吉野弘志(b) 楠本卓司(ds)
2.デイ・スタンド・サムシング(日立サムシング)
  明田川荘之(p) 畠山芳幸(b) 楠本卓司(ds)
3.トワイライト・ウェーヴ・ビフォー・ダーク
  明田川荘之(p)ソロ
4.A列車で行こう〜山田線で行こう
  明田川荘之(オカリナ) 石田幹雄(p) 畠山芳幸(b) 楠本卓司(ds)
5.福島での若き日々
   明田川荘之(p)ソロ

プロデューサー:明田川荘之
エンジニア:島田正明
録音:西荻窪「アケタの店」にて ライヴ・レコーディング
  1:2012年3月3日
  2&4:2012年6月9日
  3:2012年6月30日
  5:2011年11月12日

 表題曲(1)<いそしぎ>のカデンツァはいつものアケタズ・センチメンタリズムとはおもむきが異なり、より瞑想的で哲学的に響く、深い。そしてリズムの二人が加わり、テーマが現れるといつもの唸り声をともなってピアノとの結びつきを強めてゆく。
 いそしぎ(Sandpiper)といえばエリザベス・テイラーとリチャード・バートンの名画の冒頭、白波を立てるカリフォルニアの海辺のシーン、マイルス&ギルを想わすようなトランペット・リードの<The Shadow Of Your Smile>ジョニー・マンデル・オーケストラが頭に浮かぶ。
 しかし自筆のライナー・ノーツによるとこの曲の演奏中アケタこと明田川荘之はカリフォルニアの白波ではなく遠く太平洋をへだてた岩手県・大槌の海辺が、そして大槌のライヴ・ハウス「クイーン」のことが頭から離れなかったという。この<いそしぎ>では吉野弘志(b)、楠本卓司(ds)という「アケタの店」創設以来の気心の知れたメンバーとの呼吸もぴったりとあっていてアケタの持ち味が存分に発揮されている。そしてアケタのソロに続く吉野弘志のベース・ソロからも誠実で思慮深い人間味が響いてくる。これが、また泣けるのだ。
 (2)<デイ・スタンド・サムシング(日立サムシング)>は文字通り日立市にあるライヴ・ハウス「サムシング」をそのまま曲名にしたのだという。彫りの深い陰影のある曲である。いつも、鍵盤と格闘し激しい愛を交わすアケタさんであるが、ここにはいつになく醒めたアケタさんがいる。
 (3)<トワイライト・ウェーヴ・ビフォー・ダーク>と(5)<福島での若き日々>はアケタのピアノ・ソロ。これまで、『ニアネス・オブ・ユー』(AKETA'S DISK)など、スタンダードを題材に迫真のピアノ・ソロ・アルバムを発表してきたアケタだがこの2曲はいずれもアケタ自身のオリジナル、いつになくナイーブでセンチメンタルである。いつもながらアケタのバラードは絶品、鍵盤と深く静かに愛を交わし、被災地に希望の灯をともす。そしてさらになによりも「アケタの店」の空気が演奏を後押しして力強いエネルギーを与えている。マルが"マンハッタンの哀愁"といわれるならばアケタは"西荻の哀愁"、どちらも物悲しさの奥に炎の情念が燃えている。
 (4)<A列車で行こう〜山田線で行こう>でアケタはオカリナを吹いている。大空に飛び立つ、いそしぎの様に軽々飄々とスイングする。オカリナのイメージとして一般的に定着している素朴な、などという表現では形容しがたいペーソスとグルーヴ感があり、他に例を見ない。アケタはオカリナのジャズ奏法はすべて自ら考案し開発してきたという。まさにジャズ・オカリナのパイオニアである。
 明田川荘之の新作『いそしぎ』には東日本大震災後の4回のライヴ演奏が収録されている。3.11以降、アケタさんはいつも被災地の友人たちのことが頭から離れなかったと自らライナー・ノーツに書いている。アケタさんの東北の友にむけた渾身のメッセージである。しかし、そうした心情を抜きにしても、本作のアケタさんの纏綿とした愁いのある演奏はワン・アンド・オンリー、独自の世界を深く築き上げていて強い説得力がある。 (2013年5月 望月由美)

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