#  997

『Dejan Terzic/Melanoia』
text by 伏谷佳代


ENJA ENJ-9596 2  

Dejan Terzic(デジャン・テルツィック;ds, percussion, glockenspiel)
Achim Kaufmann(アキム・カウフマン;pf)
Ronny Graupe(ロニー・グラウペ;7 -string guitar)
Hayden Chisholm(ヘイデン・チスホルム;alto sax)

1.Traum im Traum(7:31)
2.Fuge(3:57)
3.Denia(8:20)
4.SC158(7:35)
5.Tagtraum(7:43)
6.Hot Dream〜with a bizarre ending(4:09)
7.Melaton(4:05)
8.Alptraum(9:58)
9.Ideal(2:33)
10.Eleanor's Bad Dream(8:01)
11.Parallel4(2:14)

All Compositions by Dejan Terzic

録音:2012年8月12,13日@フォルクスハウス・バーゼル
レコーディング&マスタリング・エンジニア:Hannes Kumke(ハンネス・クムケ)
ミキシング・エンジニア:Daniel Dettwiler(ダニエル・デットヴィラー)@イデー・ウント・クラング バーゼル
エグゼクティヴ・プロデューサ:Peter Buerli(ペーター・ブリュリ)
アートワーク:Ulla C. Binder(ウラ・ビンダー)

世界中からミュージシャンを引きつけて止まない街・ベルリンであるが、ドラマーのレヴェルはことに高い。筆者は滞独中たいていのドラマーの演奏を聴いたが、在ベルリンではないもののデジャン・テルツィックはそのなかでも3本の指に入る巧さだった。精確無比さとスタミナは、まさに「カラシニコフ銃連射」と呼ぶにふさわしい。ルディ・マハールb-clやフランク・メーブスgらとともに、ニュルンベルク・シーンで活躍した代表的なミュージシャンであるテルツィックだが(ちなみに弟のゾランはピアニストでベルリン在住)、教職の関係で拠点をスイスのバーゼルへ移したようだ。しかし、本作のメンバーもドイツに拠点をもつ精鋭3人。ロニー・グラウペとアキム・カウフマンはともにベルリン・シーンの第一線。ヘイデン・チスホルムはケルン〜ベルリン〜バルセロナを股にかけ、世界中で活躍するマルチ・リード奏者。

個人的にまず目についたのが、そのヘイデンがこのアルバムではアルト・サックス1本に絞っているところ。しかし驚くべきイディオムと音色の多彩さである。優美なるうららかさとアウト気味の奇妙な明るさとの境界は、寸分の空きもなく繋がっている。文学性の豊かさはいついかなるときも健在だ。そして、アキム・カウフマン。とびきりの筋のよさを最初の一音でたちどころに感知させるピアニストだ。類型をくり返すプレイが多い本作において、その鋭いアタックと香り立つようなリリシズムで、マンネリ化に片時も陥ることなく楽曲構造をぐいぐいと発展させてゆく。

そう、この『Melanoia』はドラマーのアルバムだけあって、一貫してリズムがタイトである。メロディよりも何よりも、まず核に鼓動がある。情緒面は一見さらりと流しつつ、卓越した楽器づかいだけで畳み掛け、充分に楽しませるところにまずワザあり。全11曲中、タイトルだけでも夢という単語が含まれるものが5曲(トラック1,5,6,8,10)。アルバム・タイトルを強力に示唆する7.<melaton>も、睡眠時に多く分泌されるホルモンのこと。サブリミナルのように、ときに緩く、ときに激烈に、音楽の筋肉がすみずみにまで張り巡らされては、絶えず律動している。8. <Alptraum>(ドイツ語で「悪夢」の意)では、クライマックスでの各楽器のクラッシュの連続が聴きどころ。

2000年前後からのバルカン音楽人気も背景にあろうが、サラェヴォ出身のテルツィックはいつも自分の音楽にそれを期待されて面くらう、とあるインタヴューで語っていた。この『Melanoia』は、そこからの脱却にふさわしい、普遍的かつ内省的な音世界。水に落ちた油のように、中立ながら容易に溶解しない濃度と弾力性を保っている。ロニー・グラウペの7弦ギターも、よくあるベースレス編成とは一線を画す渋さを醸し出すのに成功している。ベースを補う音域を巧妙にカヴァーする(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。

関連リンク:
http://www.dejanterzic.com/
http://www.achimkaufmann.com/
http://ronnygraupe.de/
http://haydenchisholm.net/

関連レヴュー:
http://www.jazztokyo.com/five/five822.html
http://www.jazztokyo.com/five/five813.html
http://www.jazztokyo.com/five/five768.html

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