# 999
『マイルス・デイヴィス/コンプリート・アムステルダム・コンサート』
55 Records/FNCJ-5612/13 3,300円(税込) |
Disc 1:
1. MC(ノーマン・グランツ)
2. イフ・アイ・ワー・ア・ベル*/**
3. フラン・ダンス*/**
4. ソー・ホワット*/**
5. オール・ブルース*/**
6. ザ・テーマ*/**
7. ウィスパー・ノット
8. イーズ・イット
録音:1960年4月9日 コンセルトヘボウ・アムステルダム
Miles Davis (tp)*
John Coltrane (ts)**
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
Disc 2:
1. MC(ノーマン・グランツ)
2. バット・ノット・フォー・ミー*
3. ウォーキン*
4. オール・オブ・ユー*
5. ソー・ホワット*
6. ザ・テーマ*
7. スターダスト
8. オールド・フォークス
9. オール・ブルース*
10. ザ・テーマ*
録音:1960年10月15日 コンセルトヘボウ・アムステルダム
Miles Davis (tp)*
Sonny Stitt (as)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
維新前夜、マイルス一家の内紛を克明に捉えたドキュメント
未発表録音のリリースというのはレコード会社のA&R(Artists & Repertoire=編成担当)にとって心躍るもので、ましてやそれがジャズ史上伝説の巨人の演奏で世界初登場ともなれば天にも昇る心地がするものである。かくいう僕にもそれに近い経験が2度あった。最初の経験は他でもないマイルス・デイヴィスの『Bopping the Blues』という、マイルス20才の時の録音。当時契約していたイギリスのBlack Lionというレーベルが獲得したもので、1946年の放送録音が音源だった。2度目はやはりBlack Lionのオーナー、アラン・ベイツが発掘したものでビリー・ホリデイの放送録音(1953年)。ジャズ・フェスのプロデューサーとして名高いジョージ・ウィーンが運営していたレーベル、ストーリーヴィルを買い取った中に含まれていたもの。再発シリーズでお茶を濁していたアランの尻を叩いて倉庫を整理させたところ、リールが見つかったのだ。ことの流れから世界初登場のリリースにあたっては日本側がイニシアチヴを取り、アートワークは故・阿部克自氏に担当してもらった。マイルスのアルバムは資料的価値以上の評価を得られなかったが、ビリーのライヴ盤は世界中のビリー・ホリデイ・ファンを驚喜させたことはいうまでもない。
J.A.T.C.「ジャズ・アット・ザ・コンセルトヘボウ」シリーズを手掛ける55レコードの五野洋オーナーにとっても、この未発表音源シリーズは経営者としての立場と同時にジャズ・ファンとしても胸躍る企画に違いない。すでにチェット・ベイカー、ジェリー・マリガン、JJジョンソン、サラ・ボーンなど7作がリリースされているが、8作目に実現したのがこのマイルス・デイヴィス・グループの1960年の伝説のセッションを収めた2枚組というわけだ。タイトルが示す通り、この2枚組には、1960年に2度にわたってマイルスの2つのグループがコンセルトヘボウで行った演奏を完全収録している。ファンの興味の多くは、コルトレーンの参加にあると思われるが、コルトレーンが参加しているのは4月のコンサートでDisc1の#2~#6の5曲。10月のコンサートを収めたDisc2には退団したコルトレーンに代わって起用されたアルトサックスのソニー・スティットを含むクインテットの演奏が8曲、マイルス抜きのカルテットの演奏が2曲、コンサートのオープナーを務めたトリオによる2曲は収録許容量の関係で、Disc1の末尾に収録されている。つまり、Disc1の始めからDisc2の終わりまで全曲聴くと、4月と10月の2回のコンサートを通して聴いたことになる。
演奏はそれぞれが持ち味を発揮しており、どれも悪くはない。しかし、端的に言って必ずしもベストとは言えないだろう。興味の焦点はむしろ演奏の背後にあるミュージシャンの生き様にあると思われるがどうだろう。文は人なり、音楽もまた人なり。ジャズは人間臭い音楽である。ときに生き様が演奏にそのまま反映される。前年のほぼ同時期に『ジャイアント・ステップス』と『カインド・オブ・ブルー』を制作したコルトレーンとマイルス。それぞれにとって、いやジャズ史にとってもモニュメンタルなアルバムとなった。それぞれが新しい次元を目指してドアを開けた。しかし、2枚の異なるドアを。自己のグループを結成、突き進みたいコルトレーンの首に鎖を付けてヨーロッパ・ツアーに連れ出したマイルス。同い年とはいえボスの指示には従わざるを得ないのが兵隊。あるいはコルトレーンの実力を知るマイルスにトレーンとのケミストリーを期待する思いもあったか。10月のスティットに音楽的刺激は期待できない。新人を見つけるまでのつなぎ役。昔のよしみで。しかし、スティットは立派に役目を果たす。むしろオランダの聴衆にはスティットが快かったかも。とくにマイルスの抜けた2曲は。
猪突猛進、まっしぐらに生き急いだコルトレーンは1967年、40年の生を終えた。オン&オフ、時には悪さもしながら65年の人生を楽しみ尽くしたマイルスは1991年、その生を閉じた。ともに、1926年の生まれである。(稲岡邦弥)
追)『マイルス・デイビス自叙伝II』(マイルス・デイビス+クインシー・トループ著/中山康樹訳:宝島社文庫)P35~を併せ読むとこの時期のマイルスとその周辺の事情がよく分かる。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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