あれから３０年が過ぎた。毛利真由子さんというスレンダーな女性が六本木のオフィスを訪ねてきた。当時ECMを担当していたのは原田和男君だった。原田君が「パット・メセニーのファンクラブ会長です」と言って毛利さんを紹介してくれた。
　それからしばらくして彼女が携えてきたのが、ここに紹介するファンクラブの会報誌創刊号である。B5版のモノクロ印刷２０ほどの小冊子だが、表紙を飾る三浦憲治氏の甘く憂いを含んだパットの写真がまず目を引く。ページを繰って驚くのはびっしり書き込まれた手書きのさまざまなテキスト。ECMとのやりとりはテレックスを使っていたから、もちろんまだパソコンはおろかワープロさえ登場していなかった時代である。そうするとガリ版を切っていた？あるいは、手書きの写真製版？コスト的に考えるとガリ版（先生が職員室で通知や宿題を鉄筆で鑞紙に刻んでいたアレです）に違いない。
　巻頭を飾るのはアメリカのGuitar Worldに掲載されたパットへのインタヴューの翻訳である。
　ECM Galleryでは『クリスタル・サイレンス』や『オープン・トゥ・ラヴ』『サークル』などECMの新譜紹介。その他、ファンによるパットとの面会レポート、パット・メセニー物語など、なかなか充実した内容である。
　パットは1954年生まれだからすでに．．．去年、すみだトリフォニーホールで聴いたワンマンショー「オーケストリオン」では相変わらず少年のように浮き浮きしていたが。
　毛利さんはその後アメリカに渡ったと風の便りに聞いたが今でもパットを聞いているのだろうか。（稲岡邦弥）