# 024
フリーペーパー『AKISAKILA』
text by 稲岡邦弥
11月、セシル・テイラーが京都賞受賞のために来日する。奇しくも、1973年のユニット(セシル・テイラーp、ジミー・ライオンズas、アンドリュー・シリルds)での初来日40周年にあたる。高齢(1929年生まれ)のためもあり、ここ数年コンサートのキャンセルが多く、去年のブルーノート東京を始め、今年の世界各地のコンサートを軒並みキャンセル、来日すら危ぶむ声がある一方、京都賞受賞のために体力を温存しているのだ、という見方もある。
5年間勤めたドイツ系貿易商社を辞し旧トリオレコードに入社した僕は、まもなく海外渉外部から制作部に転籍し、ECMなど海外レーベルと契約するとともに原盤制作にも乗り出した。セシル・テイラー・ユニットの来日を知った僕は、無謀にも招聘元の鯉沼利成氏(当時、あいミュージック主宰)にライヴ・レコーディングを申し入れた。セシルの返答は「とにかくテープを回してくれ。リリースの諾否は演奏の結果次第」ということだった。幸い、同意がとれ、鯉沼氏が制作した『ソロ』と合わせてリリース、文字通り世界中のファンから熱狂的に迎え入れられた。
そんななか、事業部長の大熊隆文氏(故人)と語らい「フリーペーパー」を発行することになった。出版業界から転進してきた大熊氏と大学でジャーナリズム研究会に所属していた僕はともに業界でも初めての小さいながらもメディアを持つことに興奮した。
1973年8月21日、名前も決まらないまま「創刊準備号」を刊行。タブロイド版4pの二つ折り。続いて9月には名前のないまま「堂々創刊号」。特集は「セシル・テイラー」で、4本。「ズーム・アップ」はポール・モチアン。打道宗廣氏のイラストが素晴らしい。他に、中江昌彦氏(現・翻訳家)の「シカゴ、僕のブルースへの旅」、ジャズ評論家瓜坂正臣氏(故人)の「またまたジャズが好きになってきた」。クラシックは、「菅野沖彦氏の録音による宮沢明子・新シリーズ」と「ペルゴレージ<奥様女中>」など。
紙名が決定したのは3号目。「AKISAKILA」。アキサキラ、スワヒリ語で“boiling”(沸騰しているの意)。セシル・テイラー・ユニットの日本ライヴ盤からの借用である。掲載紙は「7号」で特集は鍵谷幸信氏(当時、慶応大学文学部英文科教授。故人)と詩人の藤富保男氏の対談「今日はセシル・テイラーとダラー・ブランドのことなんか話してみよう」で2pに及んでいる。インタヴューはマイルス・グループで来日したパーカッショニストのエムトゥーメ、レコード・レヴューは「アート・アンサンブル・オブ・シカゴ」、「デルマーク・ブルース・マスター・シリーズの紹介」「ミュージシャン自身の制作した音源のための新レーベルNadja(ナジャ)の紹介」。クラシックは小野俊雄(当時、FM東京編成部)によるエッセイ「メロンとハムとフォーレ」。
編集後記のタイトルは「あ〜だ、CODA」と親父ギャグすれすれの危うさ。ジャズもクラシックも分け隔てなくという「AKISAKILA」のスピリットがそのまま「Jazz Tokyo」に引継がれているような気もする。それはともかく、初来日40周年の来月、セシル・テイラーが無事来日、京都賞を受賞し、田中泯との記念公演を実現してくれることを祈るや切である。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.