#  025

セシル・テイラー
『Cecil Taylor Unit/Nicaragua: No Pasaran - Willisau 83 Live』

text by 横井一江





Cecil Taylor (p)
Brenda Bakr (vo)
Jimmy Lyons (as)
William Parker (b)
Rashid Bakr (ds, per)
Andre Martinez (ds, per)

Live in Willisau, Switzland 1983

 セシル・テイラーが京都賞を受賞したというので、授賞式関連行事の取材で京都を訪れていた時のこと。空き時間に少し観光したいと思って、バスに乗った。市内を通り抜けていく最中、暇つぶしにiPhoneでネットサーフィンしつつニュースを読んでいたら、「セシル・テイラー氏73年京都公演?の録音、左京で発見」(京都新聞)という記事(*)を見つけた。
 京都市のジャズ喫茶「YAMATOYA」でセシル・テイラー初来日時の京都公演を録音したレコードが5枚見つかったというのである。音響担当者が私的に録音していたものらしい。店主によると、京都公演の際リハーサルに場所を提供したことから、公演関係者からそのLPをもらったという。
 そういえば一度だけ「YAMATOYA」に行ったことがあった。自宅にあるのと同じガラードのターンテーブルがあったので、親近感を感じた記憶がある。スピーカーもアンプも違うから、もちろん「YAMATOYA」のほうが音が良かった。ピアノはたしか奥のほうにあったように思う。しかし、昔のジャズLPがかかっていたあの店でセシル・テイラーがリハーサルをしていたとは...。そのようなことを思いめぐらしていた数分後、バスは「YAMATOYA」の青い看板のある小路の前を通った。まさに奇遇である。
 セシル・テイラーの海賊版といえば、私も一枚持っていることを思い出した。フリージャズ・ファンのアメリカ人コレクターを経由して入手した記憶がある。1983年のスイス、ヴィリザウでのライヴ録音だ。ヴィリザウといえば、グラフィック・デザイナーとして世界的に知られるニクラウス・トロクスラーが1975年からジャズ祭を行っており、セシル・テイラーも何度か出演している。もしかしてと思い、データを調べたら1983年8月25日から28日にかけて開催されたジャズ・フェスティヴァル・ヴィリザウに間違いなくこのメンバーで出演している。ということは、関係者の誰かがこの海賊盤制作に関わっていた可能性もあり得るだろう。
 この海賊盤は普通の海賊盤と少し違っている。まず、タイトルが『Nicaragua: No Pasaran』であること。当時はサンディニスタ革命政権軍とアメリカが資金提供した反革命軍コントラが戦った第二次ニカラグア内戦の真っ只中。「No Pasaran」とはスペイン内戦時に闘士ドロレス・イバルリがスピーチで使った有名な言葉であり、「奴らを通すな」つまりファシストを通さない、絶対認めない、許さないといった意味である。そして、政治的な意味合いを持つタイトルだけではなく、裏面に書かれたテキストには「これをニカラグアの革命的な人々、とりわけ西海岸のブラック・サンディニスタに捧ぐ」、また「このアルバムの収益(約7000スイスフラン**)はニカラグアの音楽協同組合に寄付する」と書かれている。
 セシル・テイラー・ユニットの本盤での演奏もそうだが、こういう盤が制作されたこと自体、時代を彷彿とさせる。チューリッヒでローテ・ファブリークが一時的に文化施設としてオープンしたのは80年、住民投票でオルタナティヴな文化センターとなったのは1987年。元工場だった場所の再開発計画も含めて、それを転じさせるには政治家も巻き込んだ市民の運動があった。そのようなことを考えると、80年代半ばのスイスでアヴァンギャルドなジャズやオルタナティヴな音楽を聴くファンの政治的な意識は高かったと想像出来る。時代の風を受け、その周囲の人々を巻き込みながら音楽シーンは展開していく。スイスの友人・知人に聞けば、このLPの由来について何かわかるかもしれない。今度聞いてみよう。(横井一江)

* 京都新聞の記事
http://www.kyoto-np.co.jp/sightseeing/article/20131110000017

** 84年のレートだと70万円前後

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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