#  084

Mathias Eick trumpet|マティアス・アイク
トランペッター


2010年9月6日
@国際フォーラム
interviewed by
稲岡邦弥/Kenny Inaoka
photo by
Hans Christian/ECM Records

マティアス・アイク
1979年6月、オスロ近郊ヴェストフォルの生まれ。主要楽器はトランペットだが、コントラバス、ヴァイブラフォン、ピアノ、ギターも演奏する多楽器奏者。
2002年頃から録音活動を開始、ノルウェーの人気グループ「ヤガ・ヤシスト」のコア・メンバーとなる。2007年1月、NYで行われた34回IAJE国際大会で「新人賞」を獲得。同年9月、初のリーダー・アルバム『The Door』(ECM2059)をECMに録音、トランペット、ギター、ヴァイブラフォンを演奏。レギュラー・グループによる『Skala』(ECM2187)を2011年2月に発売予定。
2009年9月、アジア・ツアーの途次、同じくECMのアーチスト、ジェイコブ・ヤングgのグループで来日。

開演直前、屋台でコーヒーを求めるマティアスを見つけ声をかけた。「ECMのハイノからインタヴューをするように頼まれてるんだ。新録を済ませたそうだね。明日の予定は?」「朝8時半にホテルを出る」「えっ!」「事前に連絡してくれたら良かったのに」「NHKに申込んだけど、メールの返信がなかった」「何てこった」「今晩しかないね。演奏が終わってからどう?」「アーリルのバンド聴きたいんだ。最高だからね」「じゃあ、インターミションでやろう」「冷たいビール飲ませてね」「OK!」
演奏が終わったマティアスはサイン即売会へ。
「やっと解放されたね」「生ビール頼んで」「つまみは?」「そばかうどんがいい」
「そばもうどんもないね」「じゃあ、寿司か刺身」「甘エビと烏賊があるって」
「小皿でいいよ。あとでメンバーとディナーを囲むから」

♪ アイドルはC.ブラウンとC.ベイカー


稲岡邦弥 (JT):随分、日本通のようだけど、今回は3度目の来日でしょう?

マティアス・アイク (ME):いや、5度目だ。じつは、ガールフレンドとプライベートで1度来てる。ジェイコブ(註:ジェイコブ・ヤングg。日本ではヤコブ・ヤングと表記されている)と来た(註:2007年9月)あとにね。どうしても日本の素晴らしさを彼女に教えたくてね。箱根の温泉に泊まったんだけど最高だった。それから今年の7月には「ヤガ・ヤシスト(Jaga Jazzist:http://twitter.com/jagajazzist)でフジ・ロックに出てる。1万5千人の聴衆を前に演奏したんだ。9ピースの大きなバンドでね。僕はトランペットの他にベースとヴァイブも演奏した。

JT:それは知らなかった。

ME:だけど、今回は自分のバンドだからね。自分のバンドで日本に来るのはひとつの夢だったから。

JT:4日の朝のギグは大変だったんじゃないの(成田から代官山のクラブ「晴れたら空に豆まこう」に直行、午前11時からライヴがあった)。

ME:いや。飛行機の中でぐっすり寝たから。

JT:ツイン・ドラムでリズムはロックっぽかったり、ファンクっぽくなったりしたけど、トランペットは奇麗な音色で良く伸びてメロディが印象的だった。

ME:僕のアイドルはクリフォード・ブラウン(1930~1956)とチェット・ベイカー(1929~ 1988) だから。彼らの影響はあるかも知れない。

JT:ジャズ・トランペットのクラシックだね。マイルス(デイヴィス、1926~1991)は?

ME:この地球上に住むトランペッターでマイルスの影響を受けてない奴がいると思うかい?

JT:マイルスはどの時代?

ME:50年代と60年代だね。君は?

JT:僕はどちらかというとエレクトリック・マイルスだ。とくに好きなのは『アガルタ』と『パンゲア』(共に1975年録音)。

ME:知らないな。

JT:日本のコンサートのライヴ・レコーディングだ。

ME:聞いたことがない。

♪ パット・メセニーの手法を真似た。


JT:ところで、新作のことだけど。

ME:今日演奏したバンドで録音した。曲によって編成が変わるんだけど。来年2月に発売予定だ。

JT:ツイン・ドラムのバンドをECMが録音するのは珍しいね。

ME:ウフッ。

JT:レインボウ・スタジオで録音したの?マンフレート(アイヒャー。ECMのプロデューサー)のプロデュースで?

ME:いや。友達のスタジオで録音した。3ヵ所を使って。ブゲ(ヴェッセルトフト)のスタジオもね。費用は全部僕が払った。僕のセルフ・プロデュースでECMがミキシングをした。

JT:ずいぶん思い切ったね。

ME:一発で録れる音楽ではないので、じっくり時間をかけたかった。ECMの場合は2日だから。スタジオを使えるのは。最初のアルバム(『The Door』ECM2050/2007年)の録音の時は、マンフレートが急ピッチでOKを出していくんだ。あれよあれよという間に終わってしまった。

JT:新人の場合は仕方がないかも知れないね。

ME:新人だからこそ時間が欲しいんだ。パット(メセニー)に相談したら『ファースト・サークル』(ECM1278/1984年) の録音のやり方を教えてくれたんだ。彼も自分でリスクを負って思い通りのアルバムを作った。僕も同じ事をした。

♪ パットばかり聴いていた。


JT:ECMではどんなアルバムを聴いていたの?

ME:パットばかりだね。僕が生まれた頃はすでにECMが存在していたことになる(マティアスは、1979年生まれ)。

JT:ECM3世代目のトランペッターということになるのかな。ノルウェー人としては。

ME:そうだね。ニルス・ペター・モルヴェル(1960年生まれ)とアルヴェ・ヘンリクセン(1968年生まれ)が先にいた。

JT:しかし、ノルウェーというのは人口500万人足らずだよね。

ME:そうさ、東京の一部くらいしかない。

JT:その小さな国からどうしてこれほど優れたミュージシャンが次から次に出てくるんだろう。

ME:音楽はノルウェー人にとってとても大事な文化なんだ。どんな小さな町にも大なり小なり音楽フェスティバルがある。小さいときからフェスティバルを聴きにいったり、出演したりしている。

JT:ECMとのコンタクトは?

ME:ジェイコブ(ヤコブ)・ヤングgのバンドからニルス・ペターが抜けて、僕が後釜に入ったんだ。

JT:ヤングのアルバム『イヴニング・フォールズ』(ECM1876/2002年)でECMデビューを果たした。それから...。ちょっと待って。

ME:何だいそれは。

JT:ECMの完全カタログさ。日本で出版されたばかりだ。

ME:ちょっと見せてよ。うわー、すごいな。これ(ジェイコブ・ヤングの2作目『サイドウェイズ』ECM1997/2006年)と、それからこれにも参加している。これは、アルヴェ・ヘンリクセンのアルバムだ。

JT:これは君へのギフトだ。海外のミュージシャンでは初めてだよ。

ME:凄い。ありがとう!あとでゆっくり見せてもらうよ。

JT:マティアス、今、アーリルが演奏している曲、日本風だと思わないかい。

ME:中国風といった方がいいかな。いずれにしてもペンタトニックだ。ケニー、申し訳ないけどインタヴューはここまでだ。何か聞きたいことがあったらメールで質問してよ。じゃあ、アーリルのバンド聴きに行ってくるよ。


CD1:『マティアス・アイク/ザ・ドア』(ECM)


CD2:『ヤコブ(ジェイコブ)・ヤング/イヴニング・フォールズ』(ECM)

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