#  095

Johnny La Marama|ジョニー・ラマラマ

Johnny La Marama | ジョニー・ラマラマ:
Kalle Kalima (カーレ・カリマ) フィンランド Guitar/Voice
Chris Dahlgren (クリス・ダールグレン) アメリカ Double-bass/Voice
Eric Schaefer (エリック・シェーファー) ドイツ Drums/Voice

Interviewer/独日訳:伏谷佳代(Kayo Fushiya)
協力:Office Ohsawa, Traumton Records
写真:Courtesy of Office Ohsawa(グループ)/前沢春美
※このインタヴューは2008年の来日前に行われたものです。

残念ながら日本にはベルリンのジャズ・シーンはあまり伝わってはいません。情報は限られており、両極端と言えます。つまり、60年代からベルリンに根付くフリー・ジャズの伝統が色濃い、その意味でもはや「オーソドックスな」シーンと、プレンツラウアーベルグ地区(※旧東ベルリンの若者が多く住む地域で多くのアーティストが居住)で盛んなエクスペリメンタル系音楽シーンの2つ。ですが私は、その中間層にある層こそが充実しており、ベルリンのジャズ・シーンの醍醐味が凝縮されていると考えています・・・。


Q1:現在進行形のベルリン・ジャズ・シーンについて少々お聞かせ下さい。特徴はどのようなものでしょう?

Kalle Kalima(以下、KK):ここベルリンのクリエイティブ・シーンは本当に面白い。オーネット・コールマンやエリック・ドルフィーの影響色濃いフリー系から、メインストリーム、パンクなんかももちろんある。とても分厚くて何層も成している。
Chris Dahlgren(以下、CD):今日のベルリン・シーンは「汎ヨーロピアン・シーン」とでも表現するのがベストだと思う。フリー・ジャズはもちろん、 ヨーロッパ中、そして世界中から押し寄せる多種多様な勢力に対して常にオープンだから。逆にニューヨークに代表されるような、アメリカの音楽シーンとの結びつきはさほど強くない。


Q2:コンテンポラリー・ジャズは境界がなく非常に多面的ですが、いまだにはっきりしたジャズのコンセプトやイディオムが存在するとお思いですか?存在するとしたら、どのようなものでしょう?また、それぞれのメンバーにとっての「ジャズ」とは?簡略に言うと?

KK:難しい質問だね・・・。伝統的に実に多様なリズムとインプロヴィゼーションが複雑に絡みあっているのがジャズだけれど、「生き続けるジャズ」なんてものは存在しない訳だし。
CD:今日、ジャズはあらゆる形式・コンセプト・イディオムを取りうる。それが、ジャズがジャズたる所以だ。ジャズは状況を絶えず変化させながら進化し続ける。自分にとっては、ジャズとは「自発的な想像力」だ。
Eric Schaefer(以下、ES):「精神」とか「型」とかいう言葉と同様に、「ジャズ」という単語も実に多義的で幾層にもわたる。概念的に捉えればね。多かれ少なかれ、ジャズ最大の特徴はインプロヴィゼーションにあることは確かだとは思うけど。インプロヴィゼーションにおいて、ジャズは現代音楽や、ロックのジャム、ブルース、ファンクなんかの他ジャンルの音楽だけでなく、アクション・ペインティング、パフォーマンス、ダンスといった音楽以外の要素とも分かち難く繋がっている。ジャズを一言で・・・・。「ライブを聴いてくれ、ステージが答えだ」かな。


Q3:バンドの名称自体がすでに「境界のなさ」、「異なる要素のフュージョン」を体現しておられます。メンバーは多国籍ですが、それぞれの文化的背景の影響はやはり大きいですか?それとも単に、お互いの音楽的嗜好の類似が結成理由でしょうか?

KK:メンバーたちの「オープンさ」に拠るところが大きいと思う。そして僕たちは望みが多い。 他方、それぞれのメンバーがとても忙しいから、あまりいろいろ考えている時間はないことも確かだけど。
CD:Johnny La Maramaのサウンドにはもちろんメンバーそれぞれの音楽的・文化的背景が色濃く作用しているが、現時点でのバンド・サウンドは自分たちの想像力によるところが大きい。バンド名そのものである架空のキャラクター“Johnny”のいろいろなドラマや状況なんかを想像するんだ。例えば、ヨハン・シュトラウスのワルツが奏でられているような格式張った大ホールの只中にいる“Johnny”の、ビュッフェで食べ物を失敬するときに頭のなかで鳴り響いているのは、実は「ブギウギ」であったりするような。


Q4:“Johnny”は架空の人物で、メンバーが集まって演奏が始まれば絶えず成長していく子供のようなもの、とのことですが、なぜ今、この非常にアメリカ的な“Johnny”なのでしょう?そして、ベルリンのような多文化都市での聴衆の反応は?

KK:名前はユーモアたっぷりに響くと思う。ニュージャージーからの逃亡ギャング、みたいな感じで。
CD:バンド名は確かにアメリカ人みたく響く。“Johnny”の父親はフリー・ジャズ・バンジョー奏者で、母親はルーマニア出身のジプシー。一般に、聴衆の受けはとてもいい。シンプルで口について出やすいし、波乱万丈な感じもするから。


Q5:言葉遊びに満ちたタイトルと、ヴォイスの多用。文学的表現(メロディーなく言葉のみでの表現)を、メロディーによる表現と比較してどのように位置づけておいでですか?

KK:僕たちは大仰にメロディーを歌うようなことはしない。ヴォイスは音楽に新たな局面を切り開いてくれるものとして、僕たちはとても気に入っている。まあ、ヴォイスを用いているジャズは(一般的に)そう多くはないけれど。
CD :「言葉遊び」は音楽上のアイディアを発展させるものとして、とても重要だと思っているし、その逆も然りだ。言葉から得たイメージと音楽は、人間の脳のなかで複雑に交錯しているし、一方が他方に絶えず影響を及ぼしていることを意識することが重要だ。


ここでドイツにおける芸術大学の伝統について触れたいと思います。ベルリンにも2つの芸術大学、ベルリン芸術大学とハンス・アイスラー音楽大学がありますが、どちらも「ジャズ学科」を有しています(ケルンやハノーヴァーも然り)。ドイツで教育を受けたジャズ・ミュージシャンは「器楽奏者」としての資質にまず非常に優れている。そしてクラシックの素養も高い。音楽を専攻する学生だけではなく、プロのジャズ・ミュージシャンも講師の仕事を得て糊口をしのぐこともできる。日本では、「ジャズ学科」のシステムがある芸術大学は多いとはいえませんし、特にインプロ系のミュージシャンには自己流の人が多い。大学における専任講師の口も少ない(学科として存在してもクラシックの人達とおなじバリューを得ているのか)。


Q6:音楽大学による正規の音楽教育がミュージシャンの生活に及ぼす影響について、どのようにお考えでしょう?その長所と短所は?また、ベルリンのジャズ・ミュージシャンを取り巻く環境はどのようなものでしょう?

KK:個人的には、ハンス・アイスラーで音楽を専攻したことに概ね満足している。ごく小さいころから様々な音楽学校で学んできたけれど、得るものは多かった。 ジャズ・ミュージシャンにとって重要なのは、できるだけ多くの異なるタイプのミュージシャンと共演を重ねること。その点でもベルリンは理想的だと思うね。
CD :「ジャズ・インスティテュート・ベルリン」で教えているが、この機関はあなたの言うベルリンの2つの音楽大学の共同プロジェクトです。この問いについて の自分の思いには複雑なものがある。大学におけるジャズ教育の構造には利点もあるが、不利な点もある。自分自身の経験から言って、コンセルヴァトワールで の献身的なジャズ教育プログラムに忙殺されるのと同時進行で、アーティストとしての自分自身のコンセプトやアイデンティティーは別個に発展させていかなければならない。思うに大学の構造というのは、さらなる技術を伸ばしたいと考える、時間も場所もある人々にとっては有効だけれども、一人のミュージシャンを 「クリエイティブな芸術家」に変貌させることはできないのではないか。


ここから少々個別の質問に入ります。


Q7(Kalle Kalimaへ): あなたはフィンランド出身ですが。その他の数ある魅力ある音楽都市のなかで(たとえば、ケルンやニューヨーク、アムステルダムなど)、ベルリンを選んだ理由は?

KK:偶然というか。フィンランドの音楽学校時代に交換留学のチャンスを得たんだ。知人の一人がベルリンを勧めてくれた。当時はジャズ・シーンについては多くを知らなかったけれど、やってみようと思ったんだ。ベルリンがすごく気に入って、そのまま留まっている。


Q8(Kalle Kalimaへ):あなたのギターの師匠の一人はジョン・シュレーダーです。非常に残念ながら日本ではあまり知られていませんが、稀有な才能の多楽器奏者です。あなたのスタイルや演奏における自由な精神性と自在さに、時としてシュレーダーと共通するものを感じます。あなたの音楽において師の影響は?

KK; 多大なる影響を受けたね。偉大なミュージシャンだよ、ジョンは。彼をドラムに迎えて一緒にバンドを組んでいたこともある。そこからも多くを学んだ。フィンランドでの師ラオル・ビョルケンハイム(Raoul Bjoerkenheim)もいい先生だった。何しろ彼のコンセプトは「ジミヘンと後期コルトレーンの融合」だからね。


Q9(Kalle Kalimaへ) :ジャズ・ギターで個性を際立たせたり、新しいスタイルを創り出すのは困難だと言われていますが。いつも「新しい何か」を表象することについて自覚的ですか?それとも、「スタイル」という単語自体もはやあなたには無意味でしょうか?

KK:ありがとう。僕は一対一で誰かをコピーすることは決してしないようにしている。もちろん、それぞれのミュージシャンには背景というものがあるけれどね。自分の人生の第一の信条が、他の人が真似したくないようなことに敢えて集中すること。いつのころからか、自分自身の声に従うことに確信が持てるようになってきたんだ。


Q10:(Chris Dahlgrenへ) ;あなたの活動から、いわゆるワールド・ミュージック的な音楽への傾倒も窺えます(注: Chris Dahlgrenはギリシャ系ミュージシャンとの共演も多い)。“Johnny La Marama”をワールド・ミュージック(アメリカ音楽)の一ヴァージョンとして捉えることは?

CD:“Johnny La Marama”に「ワールド・ミュージック」は全くふさわしくない。どちらかと言えば「アンダー・ワールド・ミュージック」のほうがしっくりするだろう。自分としては“Johnny La Marama”を、「ハイ・アート」と「ポップ・カルチャー」の間を、どちらの際にも触れずに漂流しているもの、として想像するのが好きだ。雑多な種類の、いろいろな文化的背景を持つ人々が自分たちの音楽をエンジョイしてくれている姿に思いを馳せていたいと思っている。


Q11 (Chris Dahlgrenへ) :“Johnny La Marama”を、アメリカのルーツ・ミュージックを脱構築・あるいは再構築する新たな試み、とも捉えられそうですが。ベルリンで、アメリカ人としてこの バンドの一員であることへの思いはありますか?

CD:このバンドはジャズ、ブルース、リズム&ブルース(“ミーターズ”や”キャプテン・ビーフハート&ザ・マジック・バンド”といったフリンジ系ももちろん)といったアメリカ音楽の影響大だけれど、自分たちの外側から何かを脱/再構築したりしている意識はない。自分たちのサウンドは、大鍋で煮たチリとかグーラシュのスープみたいなもので、沢山の材料から成り(その材料のいくつかは秘密!)、そして煮込みには時間がかかる。自分たちは9年間一緒にやってきて、本当の意味での「自分たち独自のサウンド」を近頃やっと持ち始めたところだ。


Q12(Eric Schaeferへ) :ベルリンに質の高いドラマーが多いことについては、私は確信を持っています。ベルリンほど「粒揃いの」ドラマーを有している都市は、世界に類を見ません。そんな中で、あなたの演奏はその「矛盾する要素が見事に共存している」スタイルによって、非常に際立っています(実際、ベルリンでライブを何度も聴きました)。すなわち、非常に強靭で、リズムには寸分のブレもなく、時として凶暴性すら漂わせながらも、残響の部分でいつもある種の「閑」を感じさせる。それは何かしら東洋的なものに近いと感じさせるのですが。実際、東洋もしくは日本の文化に関心をお持ちですか?

ES :いやあ、驚いた!こんな質問が出るとは。実際、ここベルリンで5年前から韓国人の禅僧のもと、禅と仏教を実践している。自分の演奏が東洋的な「静寂」の要素を持っているとしたら、それは意図された効果ではなく、残響というものがもたらす何かだろうね。


この残響の創造主は一体誰なのだろうか。

日本の雅楽で自分にとって永遠のベストだと断言できるのは、『越天楽 〜残楽三返』。尺八も好きだね。抹茶とか玉露のような日本茶も大好きだ。そういう訳で、東洋の文化全体が自分にはいつも近くにある。


Q13(Eric Schaeferへ) :プレンツラウアーベルグ地区の実験音楽シーンは、日本でも比較的知られています。あなたも参加されたアルバム『ベルリン・ドラム』(注:この地区で活発な活動を行っている、ブルクハルト・バインス、トニー・バックらも参加している)も発売されました。逆に、日本の実験音楽シーンはベルリンでどのように受け止められていますか?また、ベルリンでは高瀬アキさんが大活躍されていますが、他の日本人ジャズ・ミュージシャンについての情報は?

ES ; 残念ながら、日本のエクスペリメンタル・シーンについては、いつもニューヨーク経由で入ってくる。非常にエキサイティングなモリ・イクエ(ds)とか、サトシ・タケイシ(ds)とかね。ここベルリンでは、以前現代音楽の演奏家で何人かの日本人を知っていたけれど。
もしベルリンに住んでいる日本人のインプロヴァイザーを知っていたら、教えて欲しいね。是非聴いてみたいし会ってみたい。


再び全員へ質問。


Q14:ベルリンで一番好きな演奏場所は?そして、ベルリンのお気に入りのカフェは?

KK:シャルロッテンブルグの「A-Trane」。カフェは近所のプレンツラウアーベルグに沢山ある。
CD :特に気に入りの場所はないね。いい音楽が聴けるのならばどこにでも行く。「A-Trane」、「B-Flat」、「Aufsturtz」(注:アウフシュトルツ。ミッテ地区のオラニエンブルガー通りにあるクラブ)、「Ausland」(注:アウスランド。プレンズラウアーベルグ地区にある実験音楽のスポット)とか。
ES: 演奏するのが好きなのは、「A-Trane」。音響設備がいいからね。カフェでお気に入りはベルクマン通りの『Barcomi’s』(注:クロイツベルグ地区。プレンツラウアーベルグと並び、多くのアーティストが住む)。


(c)Kayo Fushiya/all Rights reserved-禁無断転載













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