#  102

ETHAN IVERSON|イーサン・アイヴァーソン ピアニスト

1973年、ウィスコンシン州生まれ。NYU卒。ピアニスト、文筆家。2000年、「ザ・バッド・プラス」結成。2003年『ヴィスタス』でメジャー・デビュー、「ニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾」に出演。2003年にマーク.ターナーと結成したカルテットがビリー・ハート・カルテットと名を変え活動を継続中。自身のブログ“Do the Math”で、レスター・ヤング、バド・パウエル、ストラヴィンスキーについての考察やビリー・ハート、キース・ジャレットへのインタヴューを発表。新世代の音楽人として注目されている。

Interviewed by Kenny Inaoka via e-mails, March 2012
Photos:
Iverson photo(top) by Cristina Guadalupe
Quartet in 2005 by Jos L. Knaepen
@ECM record sessions by John Rogers/ECM Records

♪ ビリー・ハートはすべての面でとても“ディープ”


Jazz Tokyo(以下、JT):まず、ECMからリリースされたビリー・ハート名義の『All Our Reasons』(ECM2248)についていくつか質問したいのですが。このアルバムは2006年制作のHigh Note盤と大分音楽の表情が違うのですが、これはプロデューサー(マンフレート・アイヒャー)のディレクションによるものですか、それともバンド自体の流れによるものですか?

Ethan Iverson(以下、EI):両方の要因だね。ビリー(ハート)が5、6年前にもっとフリーな曲を演奏するように仕向けてきたんだ。しかし、<Song for Balkis>をタイトル・ソングに持って来させるレーベルが世界広しといえどもECM以外にあり得ると思うかい?(註:Balkisは“シバの女王”。ビリー・ハートは“Jabali”というモスレム名を持つ)


JT:スタジオの雰囲気はどんな感じでしたか?

EI:僕らはスタジオに入る前にヴァンガードで1週間ギグをやったんだ。だから準備万端ってところだった。僕はちょっと緊張してたけど、他のメンバーは皆リラックスしてたようだね。緊張してたといっても、<2. Ohnedaruth>と<4. Nostalgia for The Impossible>のソロは僕のレコーディング・キャリアのなかでもベストに近いと自負してるけどね。


JT:ヴァンガードのセッションはいわゆるライヴ・ヴァージョンでしたか?

EI:そうだね。CDよりはもっとスイングしてたと思う。CDではかなりスペイシーに、“バラード”を演ったけど。ECMのハウス・スタイルというか...。


JT:そもそもECMでレコーディングすることになったきっかけは?

EI:5、6年前から話は続いてたんだ。誰が最初にECMにアプローチしたかは覚えていないけど。4年前にこのバンドがNYのクラブに出演していた時に、マンフレートがチェックに来たこともあった。


JT:2003年にマーク・ターナーと双頭バンド「イーサン・アイヴァーソン=マーク・ターナー・カルテット」を結成して、突然「ビリー・ハート・カルテット」に名前を変えましたがたその理由は?

EI:名前が変わったのは結成してから1週間後。ビリーから地元のモントクレア(ニュージャージー州)でギグをやってくれって連絡が入って。マークと相談してビリーにこのバンドをあげた方がうまくいくだろうということになった。
何れにしてもビリーが居るバンドはどれもビリーがリーダーになることになる。


JT:CDを聴く限りでは音楽的にはピアノがかなりの支配力を持っているように思えますが。

EI:“気の利いた”アレンジのアイディアは僕のものだ、というのは事実さ。どの曲でも全員がソロを廻すのはやめよういうことも僕が主張した。でも影響ということでは、全員がそれぞれにインスパイアされ合っている。とにかく、ビリーと演るといつも決まって皆がいつもと違う持ち味を出す結果になるんだ。


JT:ビリーの影響力の源泉はどういうところにあるのですか。

EI:ビリーはとにかくすべての面においていわゆるディープなんだ。タイム、トーン、スタイル...。僕らよりずっと年長だし、それだけ経験も豊富だしね。だけど、彼は僕らに対してとてもオープンで、嫌みな叩き方は決してしない。僕らの演奏がグルーヴするように持っていってくれる。正直なところ、僕らは彼のレヴェルに追いつこうと精一杯なんだ。だからこそ、このカルテットはビリーのバンド、ということになるのさ。


JT:最後の口笛で始まり口笛で終わる<9.Imke’s March>は誰のアレンジですか?

EI:あれはビリーだ。口笛を吹いているのもビリーだ。


JT:僕らのレヴュワーは「皆が一旦自らをリセットして新たな自分を発見したような凄み」と評していますが、そんな感じはありましたか?

EI:そんな意識はまったくなかったよ。ECMが特定のスタイルを持っているという事実だけは皆が認識していたけどね。結局、ハード・スゥインガーは1曲も演らなかった。ギグでは別としてね。だけど、次のレコードは分からんよ!


JT:年間に何回くらいこのカルテットで演奏しているのですか?

EI:数回というところかな。


JT:集客はどうですか。

EI:いいよ。さすがビリー、キャリアが長いからね。皆、ビリーのジャズ界での功績を知ってるから、彼をサポートしようと聴きにくるのさ。



♪ マーク・ターナーはコルトレーンとW.マーシュの資質を兼備


JT:ところで、サックスのマーク・ターナーなのですが、なかなかつかみどころの難しいミュージシャンという評価が多く聞かれます。あなたはミュージシャンとして彼のどういうところに魅力を感じていますか?あるいは、どういう特徴があるミュージシャンだと思っていますか?

EI:彼はいつでも僕のお気に入りのプレイヤーだったよ。彼はとても知性豊かな男でね、しかし、一方ではまるで流れに身を任せてしまう一面もある。トップ・ギアに入ったときの彼は凄いよ!ビリーの評価によれば、ウォーン・マーシュとジョン・コルトレーンの資質を兼ね備えたプレイヤーということになる。


JT:あなたが挙げるマークのベスト・パフォーマンスは?

EI:そうだな、ECMのFLYのアルバム『Sky and Country』だね。昔の『In This World』(wea, 1998)もいいね。今回のECMアルバムの<7. Wasteland>の出だしのソロ・カデンツァも凄いよね。


♪ NYでホンモノのジャズを演るまでに10年はかかった


JT:それではあなた自身について。音楽一家でしたか?

EI:いや。


JT:生地のメノモニー(ウィスコンシン州)とはどんな街ですか?

EI:小さいけれど良い大学町だった。僕が居た頃は人口12,000位だったかな。


JT:音楽に興味を持ち出したのはいつ頃でどんな音楽でしたか?

EI:かなり小さい頃だね。たしかTVから聞こえて来た音楽だったと思う。


JT:ピアノを始めたのはいつ頃から?

EI:7才。いつも学校のピアノをいたずらしていた僕を見てママが買ってくれたんだ。ママありがとう!


JT:ピアノや音楽理論は学校で学んだのですか?

EI:僕にとって重要な先生だったのはフレッド・ハーシュとソフィア・ロソフだ。若い頃にもっと訓練を受けておけばよかったと思っている。


JT:フレッドはミュージシャンズ・ミュージシャンとして知られていますよね。 ソフィア・ロソフは初耳ですが。

EI:フレッドは僕に初めてピアノのテクニックについて重要なアドヴァイスをしてくれたんだ。


JT:作曲も習ったのですか?

I:いや。僕はクラシックも随分聴いてるんだ。僕のストラヴィンスキーに関するエッセイもなかなかのもんだと思うよ。
http://dothemath.typepad.com/dtm/mixed-meter-mysterium.html


JT:ソフィア・ロソフはどんな音楽家ですか?

EI:僕のカミさんのエッセイを読んでみるといいよ。
http://dothemath.typepad.com/dtm/the-emotional-rhythm-of-sophia-rosoff-by-sarah-deming.html


JT:若い頃はどんな音楽を聴いていたのですか?

EI:11才の頃にはすでにたいしたジャズ・ファンだったよ。高校時代のレコード・コレクションには驚くと思うよ。
http://dothemath.typepad.com/dtm/73-90-redux.html


JT:NYへ移転したのはいつ頃ですか?理由は?

EI:1991年だ。NYU(ニューヨーク大学)へ入るためにね。ナマのジャズも聴きたかったし!メノモニーにはジャズ・クラブはなかったんだ!ヴァンガードへ初めて出掛けた夜は、ジョー・ロヴァーノとエド・ブラックウェルを聴いた。


JT:NYで初めて演奏した相手は?

EI:これぞジャズというホンモノのジャズを演奏するまで10年はかかった。それまでは、タンゴや、ミュージカル、モダン・ダンス、唄伴をやったりしてた。リード・アンダーソン、デイヴ・キング、ビリー・ハート、マーク・ターナー、ベン・ストリートなんかと演奏できていることにいまだに驚いているんだ。





















♪ 秋には「ザ・バッド・プラス」の新作をリリースする


T:TBP(ザ・バッド・プラス)の活動も続けて行くんですよね。

EI:もちろんさ!


JT:新作の予定は?

EI:秋に『Made Possible』をリリースする。


JT:TBPとハンク・ジョーンズや「グレート・ジャズ・トリオ」のつながりは?

EI:口癖のように何度も言ってるんだが、「グレート・ジャズ・トリオ」(GJT)の『KINDNESS, JOY, LOVE and HAPPINESS』(East Wind,1977) に収録されている<フリーダム・ジャズ・ダンス>がTBP(ザ・バッド・プラス)の生みの親なんだ。


JT:当時のGJTは、ハンク・ジョーンズ(p)にロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)でしたね。

EI:そうさ。僕はこのアルバムが大好きでね、12、3才の頃から愛聴してるんだ。


JT:それで、GJTのコレクションをしている。僕にも問合せをしてきましたね。
コレクションは完全になりましたか。


EI:その答えは僕のエッセイにあるよ。
http://dothemath.typepad.com/dtm/magic-numbers-hank-jones-ron-carter-tony-williams.html

70年代と80年代に日本のプロデューサーが制作したストレート・アヘッドなジャズ・アルバムが好きなんだ。当時の資料をときにはひも解いてみるのもいいもんだよ。


JT:ハンク・ジョーンズに、シャウティング・ヴォーカル、ザ・バッド・プラスにビリー・ハート・カルテット、これらが皆あなたの中でひとつのラインでつながっているわけですね。

EI:その通りさ。おかしいかい?<マイ・ファニー・ヴァレンタイン>を聴いてくれたようだね。あれは僕のベスト・パフォーマンスのひとつだよ。しかし、君はときどき平気な顔しておかしな質問をぶつけてくるねえ。


JT:何度か来日していますが日本の印象は?

EI:最高だよ!去年読んだ本で好きな1冊は、東野圭吾の『容疑者Xの献身』なんだぜ。


JT:最後にあなたの夢を聞かせて下さい。

EI:練習と学習を続けること。それに、今より優れた世界のリーダーシップが現れることだね。今こそ、温室効果(ガス)を解決せねばならん時だ。


*CD レヴュー@JazzTokyo
http://www.jazztokyo.com/five/five880.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/359/bad_plus.html
http://www.jazztokyo.com/five/five733.html
http://www.jazztokyo.com/five/five702.html




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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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